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疾走する超能力者のパラベラムⅢ ◆hqt46RawAo ◆ 『襲撃者/突撃』 ◆ 「がはッ……!」 何が起こったのか、何をされたのか分らなかった。 僕の腹に二つの風穴が開いている。 血が、こぼれる。 ドクドクと、流れ出す。 「うぐっ……」 僕は崩れ落ちる。 銃で、撃たれた? 撃ち返された? どうなってるんだ? 撃ったのは僕だろ? 何故、僕が撃たれてる? 状況が、理解できない。 まさか跳ね返されたとでも言うのか? 顔を上げれば、あの少年の真っ赤な目が僕を見つめていた。 少年が、缶コーヒーを握る手を振り上げる。 不味い、マズイ、まずい、これじゃ本当に注意を引いただけだ。 殺される。 カッコつけた挙句に、かっこ悪く死ぬだけだ。 くそッ。 死にたくない。 死ぬわけにはいかない。 ――なのに! 現実は無情に、少年は腕を振り下ろし――。 「なッ――」 きるまえに、右に、弾き飛ばされた。 「ンだとッ!?」 白井も呆気に取られている。 薬局の入り口の砕けたガラスドアが突然、ドロドロの金色の液体に代わったと思いきや。 そこから刃が飛び出してきた。 刃は少年の身体に直撃する直前に、壮絶な黄金光を放って薬局の外へと巻き戻る。 だが少年も同じように刃に押されるように、右に飛ばされて転がっていた。 その時、僕はまたしても大失態をやらかしていたんだろう。 あんな危険な少年から目を離して、薬局の外ばかり見ていた。 最高に命知らずなマネをしていた。 けれど、こればっかりは責められないだろう。 なぜなら、なぜならその時薬局の外に見えたのは。 こちからに向かって全力疾走していたのは、他でもない僕の恋人。 「――阿良々木君ッ!!」 「――戦場ヶ原ッ!!」 戦場ヶ原ひたぎ、その人だったのだから。 薬局内に飛び込んだ戦場ヶ原は、その手に持った鎖剣みたいなので白髪の少年を撃つ。 撃ちまくる。 炸裂する黄金光。 刃が戦場ヶ原の元に舞い戻る。 だが戦場ヶ原はその武器を自ら破棄した。 カラカラと音を立てて銃剣は薬局の床を転がっていき。 戦場ヶ原は無手で走り続けた。 彼女の挙動に前後して、白髪の少年が反撃の構えをみせる。 その時、僕の思考は漂白された。 敵の強大さとか、腹の激痛とか、全部どっかに飛んでいった。 思うことは――ただ。 彼女に会えて、嬉しい。 戦場ヶ原、こんな場合だけど。 僕はやっぱりコイツが本当に好きなんだと。 死ぬほど実感した。 ああ、愛しているとも。 だから絶対守る。 何があっても、絶対お前を守ってみせる。 人間強度とかもう知るか。 お前の為に、柄にも無い熱血なんか幾らでもやってやる。 絶対に、死なせて、たまるか! そう意を決して、僕は手に握る拳銃で、白髪の少年を撃った。 咄嗟のことだったから、二つ持っていた拳銃のどちらを撃ったのか分らない。 ただ、飛び出したのは実弾ではなく、赤い燐光だった。 それは少年の手をかすって、少年は手を弾かれたように、動かした。 どうやら投げ損ねたらしいコーヒー缶は戦場ヶ原に命中せず、 走る戦場ヶ原の少し後方を通り過ぎていった。 そして、内心胸を撫で下ろした瞬間である。 「阿良々木君、伏せといてね」 「……は?」 戦場ヶ原は未だ走り続けながら、 自分のディパックからなにやらでっかい銃を取り出していた。 「これ、撃ったこと無いし。何が起こるか分らないから……」 馬鹿でかい、SFに出てきそうな蒼い銃。 アレだ、ロボットアニメのロボットが持ってそうな仰々しい銃。 それをそっくりそのまま小型化したような……。 って、おい待て戦場ヶ原、お前それを撃つつもりか? ここで!? 玩具ならいい。いや良くないけど。 でも、もしそこから僕の想像通りの『ぶっといビーム的なもの』が飛び出したりしたら……。 この薬局、マジで倒壊するかもしれないぞ。 「――ま、まてッ! 戦じょ……!」 「それじゃ、死ぬ気で生き残ってね、阿良々木君」 引き金が引かれる。 果たして、幸か不幸か予想は現実の物となった。 砲門から射出されたビームが、鮮やかな燐光を散らしながら襲撃者へと迫り行く。 だがそれでもマズイ。 もしあの少年がさきほど僕が撃った銃弾を跳ね返したのだとすれば、順当に言ってあのビームも跳ね返される。 戦場ヶ原が、危険だ。 「駄目だ! 戦場ヶ原!」 間に合わないと知りつつも僕は駆け出しかける。 だが、その結果は予想に反した。 「……!? チィィィィィィッ!!!!」 白髪の少年は燐光を跳ね返す事が出来なかった。 だが直撃する事も無く。 少年に触れた燐光は、角度を変えてあさっての方向に弾かれる。 不完全な、反射。 そのような表現が適切だろうか? 「って、うおわッ!」 弾かれた燐光は商品棚を幾つか貫通し、僕の目前を通り過ぎていく。 商品棚を破壊し、壁を貫き、薬局を内部から破壊する。 あぶねえっ。 「ちょ、ちょっとまて戦場ヶ原!」 まじでまずいぞ、それは……。 奥には治療中の枢木とユーフェミアもいるんだ。 ていうか薬局が崩れたら、僕達全員潰されてしまう。 けど僕の止める声も聞かずに、戦場ヶ原は店内を走りながら第二射を放つ。 またしても白髪の少年は完全に弾けない。 ビームに押し負けるように数歩分、よろめくように後退した。 弾かれたビームはやはりあさっての方向へ。 またしても商品棚を貫き、床に直撃。 床が土埃を上げて爆散する。 その凄まじさは白髪の少年が放つコーヒー缶以上の威力だ。 っていうか、滅茶苦茶だ。 周囲に与える被害が半端じゃない。 相変わらず、やると決めたら徹底的。 彼女には迷いが無いし、遠慮がない。 暴力に、ためらいが無い。 ていうか、アレって戦場ヶ原の支給品か? どんだけチート武装、大当たりを引いてるんだ。 僕なんかギターにぬいぐるみにストラップだったんだぞ。 なんなんだこの差は!? 「ざけンなくそがァッ!」 よろめく少年が銀球を投げ放つ。 まずいっ。 戦場ヶ原の第三射よりも、僅かに速い。 「――――!!」 今度こそ、僕にはどうすることも出来なかった。 伏せる事しかできなかった。 走り続ける戦場ヶ原にかわす術などない。 彼女の顔が強張るのが見える。 だが救いの手は未だあった。 「白井!」 「任せてくださいましッ!」 いつの間にか下敷き状態から抜け出した白井が、戦場ヶ原の足首を掴んでいた。 シュン、という音と共に、二人の姿が掻き消える。 数秒の時も置かずに、二人は僕の目の前に現れた。 襲撃者へと、立ちはだかるように。 いやこの状況だけ見たら戦場ヶ原が襲撃者だけど。 「――消えなさい!」 そして放たれた第三射にて、遂に白髪の少年は弾ききれなかった。 燐光に押し負ける形で、薬局の奥にカッ飛んでいく。 それを追うように燐光も飛び、起爆。 瞬殺だった。 薬局奥の爆発を背に戦場ヶ原は、僕に振り返る。 その横顔は、なんだか壮絶にカッコよかった。 「ふぅ……死ぬかと、思ったわ。 私にこんな無茶をやらせるなんて、阿良々木君。あなた責任を取りなさい」 そして、彼女はもう限界と言うように、壁に背をつけた。 そのまま、ずるずると座り込む。 足元を見れば、膝が笑っていた。 「…………」 なんと言っていいかわからない。 彼氏である僕が彼女に命を救われて、なんだがとてもかっこ悪い気がしないでもないけど。 いろいろ状況についていけてないけど。 今はただ、戦場ヶ原に生きて会えて良かったと。 その思いで、僕は頭がいっぱいになっていた。 だからだろうか。 「ああ、お前の為なら、なんだってやってやるとも……」 そんな、後から考えたらこっぱずかしいにも程が在るセリフが、僕の口から飛び出していったのだ。 ■ 若干の感覚をあけて、 手負いのC.C.は漸く戦場ヶ原ひたぎに追いついていた。 「やれやれ、また滅茶苦茶にやらかしたものだな……あの女は」 呆れつつも何故か小さく笑みを浮かべて、C.C.はボロボロの薬局内に足を踏み入れた。 ずん、という衝撃音は今はもう聞こえない。 ジャリジャリと砂とガラスを踏む音をたてながら、酷い有様になった店内を歩く。 その時、その足にコツンと何かが触れた。 「……こんな物を隠し持っていたのか」 それを拾い上げる。 瞬間錬成<リメン=マグナ>、鎖鏃武器。 攻撃した対象を瞬時に黄金化する魔術武装。 C.C.はその正体を知らぬまま手に持ち、更に薬局の奥に歩いた。 視界の環境は依然最悪だったが、左の壁際に三人分の人影が見える。 戦場ヶ原ひたぎと、見知らぬ少女と、見知らぬ少年。 順当に言って、あの少年こそが。 「なるほど、それが噂の彼氏というわけか」 少年、阿良々木暦を指差した。 「ええ、そうよ、紹介するわ。私の彼氏、阿良々木暦よ。 阿良々木君、この人はC.C.といって……」 戦場ヶ原ひたぎが振り返る。 そして誇らしそうに、胸を張って少年を示す。 一見して何のことは無い、ただの頼りない男に見えたが、きっとそれだけではないのだろう。 ひたぎと長く共にいたC.C.はなんとなく感じ取っていた。 「ふふっ……そうか、阿良々木暦、私はお前に言いたい事がたんまりとある」 笑顔で少年に語りかける。 「なんだか、嫌な予感がするな。戦場ヶ原、お前この人になんかやったのか? すごい嗜虐的な笑顔なんだけど……」 忘れたわけが無い、この男に会った時には、 ひたぎからの毒舌について散々文句を言ってやろうと決めていた。 だがその前に。 「というかお前、そんなとんでもない物を持っているなら、なんでもっと早く言わないんだ?」 ひたぎが抱える巨大な銃を指差した。 『最強の矛』をコンセプトとしたMS。 ヴァイエイトのビームキャノンに他世界のアレンジを加えた武装。 『GNビームキャノン』と呼ぶべきか。 ツインバスターライフルよりも威力は落ちるものの、 ディパックに収納された大型ジェネレータからのエネルギー供給により、 高い威力と高い連射性を両立された反則的銃器。 ただし撃てる回数には限りがある。 そんな事をC.C.は知らない。 とはいえ、このゲームのパワーバランスをひっくり返し得る武器であることは容易に分る。 「切り札は最後までとっておくもの、そうでしょう?」 さらりと肩を竦めながら言ってのけるひたぎを見て。 「ははっ、そうだな。大した奴だよ……お前は」 思わず、そんな柄にも無いセリフが口から飛び出していた。 自分でも少し驚いて、C.C.は一つ咳払いをする。 「と、とにかくだ。危機はさったのだろう? だったら状況の説明を頼もうか」 そう言ってひたぎから視線を逸らし、阿良々木暦を見た。 「そうね。私も正直、状況がよく分っていないわ」 二人の女性の視線が阿良々木一人に集まる。 しかし、阿良々木が口を開く前に、三人目の少女が声を上げた。 「そんな余裕ありませんのっ」 白井黒子だけは、未だに緊張感の抜け切らない面持ちだった。 「まだ敵を倒した確証もありませんのに、よくもまあそんな暢気に……」 「暢気って……幾らなんでもあんな攻撃受けて生きてたら、そんなの無敵ってもんじゃ……」 「――無敵ですのよ」 阿良々木のセリフを遮って白井黒子は言う。 「阿良々木さんは、あの人物を知らないから……」 あれほどの決定的な一撃を受けて生きている。 普通なら冗談だろうと笑いとばせそうな事だが、白井黒子の目は本気だった。 「どうやら、敵は本当に反則級らしいな。 それじゃどう動くのが最適だ?」 それをいち早く感じ取ったC.C.は問う。 この場の指揮を任せるのは敵を知っている白井黒子が最適だと判断したのだ。 「とりあえず、敵の生死を確認するのはわたくしが一人でむかいます。 皆さんは兎に角、この場をはなれてくださいな」 「……ん。そうか、なら行くぞ」 C.C.の決断は早かった。 戦場ヶ原の手を取り、歩き始めようとした。 「いや、ちょっと待てよ、それじゃ白井は……」 だが阿良々木は迷いを持った。 「まだ治療は終わってませんの。だれかがここに残らなくては……」 果たしてそれが、そのごく僅かなやり取りが、間違いだったのか。 それとも免れない運命だったのか。 「…………く…………か…………!」 はたして、声は4人の下に届いた。 「……か……き……く…………けここかきくけこかきくけこきくかけくこ……!」 地獄の淵から聞こえてくるような、 殺意の集大成のようなおぞましい声。 薬局全体が、再び震撼する。 これまでの衝撃の比ではない。 薬局の入り口から進入してくる何かが、 とんでもない量の何かが、薬局の右奥部――先程一方通行がぶっとんでいった辺りに収束している。 「ヒァハハハハハハハハ!! ひでェザマだなァおい! 一般人に殺されかけるたァよォ! ヒャハハッ! けどまァ、結果オーライだ。 全部で六人か。 こンだけ集まりゃ十分だろ!」 膨大な風圧によって、舞っていた土埃が霧散する。 立ち上がった一方通行が収束させる、真空の刃によって。 「ようやく、本気でいけるってもンだ。さァ、凌げるもンなら凌いでみろ。 何人生き延びられるか、見ものだなァ!」 拡大する真空の刃。 膨張を続け、遂に臨界点を迎える。 そして、死の風が吹き荒れた。 ◆ 『選択/退避』 ◆ 向かい来る死。 その状況を切り抜けるための、救いの手は届かなかった。 白井黒子が伸ばした手は、誰にも届かぬまま。 死に追いつかれる。 今の彼女に出来た事は……。 「……そんなっ!」 自分一人、薬局の上空に逃れる事だけだった。 ◆ 『選択/守護』 ◆ 阿良々木は迷わなかった。 自分のするべき事は決めていた。 すぐ隣にいた戦場ヶ原を抱きしめる。 彼女だけは守る、と。 命を投げうって。 自分の背中に死が辿り着く瞬間を覚悟した。 ◆ 『選択/疑問』 ◆ 押し倒されていく戦場ヶ原はそれを見る。 自分を抱きしめる阿良々木の背後に確かに見た。 己と阿良々木の正面に立つ人影。 「……どうしてっ……!?」 両手を広げ、死の風の前に立ちはだかる、緑髪の女性の姿を―― ◆ 『選択/死滅』 ◆ 「どうして、か。 どうしてなんだろうな」 C.C.自身にもいまいち分らなかった。 なぜ己が迷い無くこんな選択をしたのか。 誰かの代わりの死を選んだのか。 「ま、契約したしな。お前の背中を守ってやる、と」 しかしそもそも、自分がそこまで義理堅かったのかとも思う。 別にもう、そこまで死にたいとも思っていない。 生きる理由なら今は在る。 自分に生きて欲しいと願ったという少年。 その真意が知りたかった。 けれど――。 「死なせたくないと、思ってしまったんだ……。 それに――ああそうか、そういう事か……」 待ち望んでいたはずの死に包まれる瞬間、C.C.はその答えを見る。 『――大丈夫、必ず助けるから』 その言葉を思い出す。 「私は、知りたかったのか」 あの鮮やかな、どこまでも鮮烈な電光を思い出す。 死に瀕し、か細い息で、だが迷わなかった少女。 なにをしてやった訳でもない、出会って間もない、忌み嫌われていた己を。 最後まで笑顔で、自分の命など省みずに、救おうとした。 救う事に全力を傾けて、そして散っていった一人の少女。 彼女の心を、思いを――C.C.はずっと知りたかった。 だから、どこか自分に似た一人の少女を救えば、その思いを知る事が出来ると思ったのか。 「ははっ……馬鹿だな……」 結局分らない。 あの行為になんの意味があったのか、なんの価値があったのか。 そして自嘲の笑みを浮かべながら。 振り返る。 戦場ヶ原ひたぎの顔を見る。 「けどまぁ、悪くない」 彼女のそんな驚いた顔を見られただけでも、 これまでの仕返しをしてやれたと言うものだ。 それに、こんなふうに命を捨てて、柄にもなく誰かを守ったりして。 何より柄にも無く、『まだ死にたくない』などと考えていたのに。 「これも、悪くない……な」 誰かを守って、そして命を散らせるのも、存外悪くない気分だ。 などと、不覚にも思ってしまったのだ。 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】 ◆ 『明滅/悪鬼』 ◆ 「くっ……そっ……」 土煙立ち上る薬局内。 己の状態など二の次として、 阿良々木は腕の中の恋人の無事を確認した。 「大丈夫か、戦場ヶ原……!」 戦場ヶ原の肩を掴み、頭のてっぺんから足まで見下ろす。 外傷は、無い。 「大丈夫よ……私は……」 だが彼女の瞳は激しく揺れていた。 明らかに動揺している。 戦場ヶ原の手は伸ばされていた。 阿良々木暦の背後に、先程まである人物が立っていた場所へと。 「まさか……」 伸ばされた手は、血に濡れていた。 べっとりと。 阿良々木の背中と同様に。 「……!」 焦りと共に背中を触ったものの、怪我らしきものはどこにもない。 つまりその血は阿良々木のものではない。 振り返れば、薬局の天井にも壁にも、血がべっとりと撒き散らされていた。 凄まじい量の血液が散っていた。 まるで人間が一人破裂したような。 いや、正に人一人分の血液量。 「うそ……だろ」 阿良々木にとって、それは先程まで隣にいた人間の死を示していた。 白井黒子か、C.C.のどちらか、あるいは両方か。 「おいおいおいおい。まさか一人しか殺れてねェってかァ? テレポーターは無理としても、あとに三人はいけると思ったンだが……。 こりゃ本格的に無様だなァ……」 そして響く悪意の声。 二人の前方に、白髪の少年がべったりと返り血を浴びて立っていた。 ■ 実際、危なかった。 突然現れた女が使った、銃器による燐光。 それを一方通行は反射できなかった。 なぜならそれは彼にとって未知の物質。 有害と捕らえていない、解析した事のないものだからだ。 GN粒子。 もし一方通行がこの薬局に辿り着く前に、僅かでも触れていなければ、成す術も無く撃ち殺されていた事だろう。 GN首輪探知機。 それが発するGN粒子に触れ、完全な解析に至らなくとも、兎に角人体に到達しなように解析を続けていなければ今頃は……。 「危ねェ、危ねェ……」 一方通行とて、ツキに見放されてはいなかった。 「けどま、この結果はちィとばかし納得いかねェよなァ」 この場にいる全員の命を刈らんとして行使したベクトル変換。 入り口から吹き付けてくる風を使った攻撃。 ケチりにケチってきた能力行使を最大限発動した。 残り時間をごっそり半分もっていかれる程の全力。 使う力と殺す人数。リスクとリターンがかみ合った瞬間だった。 にも拘らずだ。 「おいおいおいおい。まさか一人しか殺れてねェってかァ? テレポーターは無理としても、あとの三人はいけると思ったンだが……。 こりゃ本格的に無様だなァ……」 殺す事が出来たのはC.C.だけ。 白井黒子には逃げられ、阿良々木と戦場ヶ原はC.C.が庇っていた。 しかし、一人しか殺せなかった理由はなによりも、一方通行が能力行使を途中で止めたからに他ならない。 「風の操作は……ちと予想以上に残り時間を削りやがるな……」 本当は薬局そのものを吹き飛ばすつもりだった。 だがそこまでの力を使えば、残り時間が残らず失われる危険性があった。 故に一方通行は力の行使を中途半端な所で止めたのだ。 それによって、薬局は原型を留めるにいたり。 一瞬とは言え、能力行使を完全に止めた彼は、 跡形も無く粉砕したC.C.の返り血を真っ向から浴びる事になった。 「やれやれ、こっからはまた節約生活ですかァ……?」 不満げに呟きながら、一歩通行は二人の男女に狙いを定める。 死を待つだけの獲物へと向かい合う。 そして、手に持った銀球を薙ぎ払うように射出した。 これで、三殺となる。 その時だった。 見覚えの在る円盤の群れが、正面に飛来してきたのは。 「おいおいおいおい、てめぇまたかよッ!」 予想が違う事は無く。円盤が構成する電磁フィールド。 数時間前と同じように、一方通行の攻撃を完全に防ぐ。 遅れて、フィールドの内側に滑り込んできた人影は――。 「ええ、先程もお会いしましたね……」 紅槍を握る長髪の女性。 前回の戦場で対峙した人物――ファサリナの姿だった。 ■ 入り口より飛来してきた十個の円盤。 それが僕と戦場ヶ原の前に展開されて、銀の閃光を阻む。 そのすぐ後に、薬局に飛び込んできた人物は――。 「ファサリナさん!」 ここに来るのが遅れていた。 先程、東側のエリアで出合った女性だった。 「あなたは……!?」 戦場ヶ原も彼女を知っていたのか、目を丸くしてその後姿を見ている。 「ここは私が!」 「わ……分った!」 僕は立ち上がり、戦場ヶ原の手を引いて走った。 彼女の足取りは重い。 きっとC.C.のことが心にあるのだろう。 けど今は走れ。 そうしなければ死ぬんだ。 だから走れ! 再び響いてくる壮絶な破壊音。 それに振り返る事無く、僕等は走った。 薬局内をひたすらに駆け抜ける。 だが――。 「逃がすかよッ!」 「伏せろッ!」 二つの声が重なって聞こえた。 一つは背後から。白髪の少年の声。 もう一つは、たしか……。 「って、うおわッ!」 それに思い至る前に地面に引き倒される。 直後、頭上を銀の閃光が通り過ぎていった。 「無事か? 阿良々木少年」 「グラハム……さん?」 ファサリナさんと同時期に薬局に入っていたのか、 橋の様子を見に行っていた筈のグラハムさんがそこにいた。 「とにかく伏せていろ。ここは奴の死角のはずだ。 ファサリナにも限界がある。下手に動けば刺されるぞ」 倒れた商品棚の影に伏せたまま、そうグラハムさんが言う。 確かに、今の一撃が飛んできたってことはファサリナさんは凌ぎきれていないということか。 このままじゃ、動けない。 「彼女も、長くはもちこたえられないだろう。早急に対策を立てる必要があるな」 僕も商品棚の影から、チラリとその戦況を見た。 ファサリナさんがあの妙な電気の盾と真っ赤な槍と、自身の凄まじい運動神経を活かして、白髪の少年と戦っている。 だが、どう見ても善戦してはいない。 先程までの白井と同様に、ひたすら戦いを長引かせようとしているだけで、自分から攻撃を仕掛ける事はない。 ただ時間を稼いでいるといった印象だ。 「対策って言っても、どうするんですか……?」 それが分れば苦労はしない。 グラハムさんにも具体的な案は無いのだろう。 ふむ、と考え込んでしまった。 大丈夫なのか……本当に。 「わたくしに、一つだけ考えがありますの……」 そんなとき、だ。 シュンという音の後に響く声があった。 「白井黒子、無事だったのか……」 グラハムさんが現れた白井の姿を見て言う。 「ええ、なんとか……」 現れた白井は、すでにボロボロの様相だった。 致命傷はないものの。 白髪の少年と戦い続けていた際に負ったのだろう、擦り傷や切り傷が身体のあちこちに見当たる。 白井が無事ってことは、さっき死んだのはやっぱり……。 いや、その感傷に浸るのは後でいい。 「お前、その状態でまたここに戻ってきたのか……」 「当然ですのよ。わたくしは、ジャッジメントなのですから……。その責務があります。それに……」 傷だらけの体で、彼女の目には未だ意志の光が宿っているように見えた。 『それに』の後は続けずに、白井はグラハムさんに視線を移す。 「わたくしは……あの敵を知っていますの」 そうして白井は語った。 白髪の少年の名前が一方通行<アクセラレータ>ということ。 その力の強大さ。 勝機が在るとすれば課せられているであろう制限と、もう一つ。 「その銃、ですの」 そう言って、白井は戦場ヶ原が抱えている銃を指差した。 確かに僕の銃撃はまるで通用しなかったのに、戦場ヶ原の銃は一方通行をふっとばした。 トドメには至らなかったけど。それでも通用するのだ。 何故この武器が一方通行に効くのかなんて分らないけが、それが跳ね返す事が困難ならば。 同じく弾く事が困難な武器で同時攻撃すれば、あるいはダメージが通るかもしれない。 と、白井は言う。 「賭けてみる価値はある、か。だがそうなると、その銃器と同質の武器が複数必要になるのではないか?」 「そうですわね。例えばコレ、とか」 そう言って、白井は鎖鏃武器を取り出した。 あれは確か戦場ヶ原が最初に使っていた武器だったか。 そういえばあれも一方通行に効いていたな。 「だとすれば、いま僕が持っている玩具みたいな拳銃もそれにあたるのか……」 「ええ、きっと通用するでしょう。問題はタイミングですの。 同時攻撃、更に言えば距離が近いほうが確実。となると……。一人は陽動に加わらなければ……」 誰が適任かは――当然、白井に決まっているか。 あの怪物を相手に出来るのは、今戦っているファサリナさんを除けばこの場で彼女くらいだ。 残る問題は自然、 「誰がどのようにして、これらの銃器を使って同時攻撃を加えるか……だな」 そう言いつつも、グラハムさんの目は半ば自分がやると宣言しているようなものだった。 「でもコレは当然、何の確証も無い。僅かな可能性に賭けた無謀な策。 奇跡的に全部上手く言ったいったしても、結局あの怪物を倒せないかもしれない。 それでも……」 「やるわ」 白井が言い切る前に、戦場ヶ原が呟いていた。 僕はそれに、恐怖すら感じる。彼女は本気だ。 それは僕だけじゃなく、グラハムさんも驚きを隠せていなかった。 きっと彼は、戦場ヶ原には一人で逃げろとでも言うつもりだったのだろう。 分る。僕もその思いは一緒だったからだ。 「お、おい戦場ヶ原。お前は……」 「いやよ。私は、このまま逃げるなんかまっぴらごめんだわ」 その目に、恐怖など欠片も無く、ただ怒りのみを映していた。 「駄目だ。君は一般人だ。私は軍人として、君を危険な戦場に送る事は出来ない 君は阿良々木少年と共に隙を見てここから逃げたまえ」 グラハムさんはそう言っていたが、僕にはもう無駄なのだと分っていた。 なぜなら、彼女はもう意志を決めてしまったのだろうから。 一度決めたことは曲げないし。 生半可な覚悟で選択などしない。 戦場ヶ原ひたぎとはそういう女性なのだ。僕は知っている。 「断ります。私はまだ何もやっていない。 自分に出来る事、しなきゃいけない事、それがまだ残っているのなら……」 そして彼女は口に出さなかったが……。 おそらくは、先程戦場ヶ原を庇って死んだ女性への重いが一番強いのだろう。 彼女の為に出来る事が残っているのなら、きっと戦場ヶ原はここから逃げる事は絶対にない。 そのくらい僕には分ってしまう。 だったら僕の答えも決まっている。 もとよりこの作戦は人数が多いほど成功率が上がる事も確かなのだ。 「もう無駄ですよグラハムさん。僕も、残って戦います。彼女は僕が守りますから……」 グラハムさんの目を見て告げる。 彼は暫し考え込んでいたけれど、かなりの間を置いて、小さく『分った』と呟いた。 「ただし、私が絶対に無理だと判断したら。すぐに逃げてもらう。いいな?」 僕と戦場ヶ原が頷く。 こうして、再び事態が動きだした。 暫しの間、あの怪物を打倒するための、作戦会議をして。 僕たちはもう一度、進む。 死が襲い来る、あの戦場へと―― ■ 「――――れで――――の治療――完了――ました」 話し声が、聞こえてくる。 一人は見知らぬ少女。 もう一人は、ずっと会いたかった少女。 捨て去ったはずの過去。 「腕の再生までは当サービスでは不可能です。別途のサービスにて対処ください。 暫くは動く事も出来ないでしょうが、もうじきに目を覚まします」 ここがどこかも分らない。 自分がどうなったのかも分らない。 何故、 「そう……ですか……」 何故、彼女の声が聞こえるのかも分らない。 体が、動かない。 目を開く事が出来ない。 今すぐにでも彼女の顔が見たいのに……。 許されないと分っていても、やっぱり願ってしまう。 僕は、もう一度、君に会いたい。 君の姿を見たいんだ。 ――ユフィ……。 ずん、と。 衝撃が伝わってくる。 いったい何が起こっているのだろう。 ここは、戦場なのか。地盤が振動しているように感じる。 「……スザク」 頬に何かが触れる。 これは、君の手、か。 きっとここは危険なのだろう、ああ今すぐ立ち上がって君を守らないといけないのに……。 なのに身体が動かない。 「貴方に、騎士としての最後の命令を、与えます……」 頬を撫でる手は、酷く優しい。 けれど彼女の声は震えていた。 何か、大きな決意を持ったときの声。 彼女は僕の主として、もう一度告げる。 「……生きて、ね……。生きて、貴方が成し遂げるべき事を、必ずやり遂げて……」 そして、頬の熱が消えた。 隣に座っていた彼女が、ゆっくりと立ち上がる気配がする。 待って、くれ。 待ってくれ。ユフィ。 僕は君に伝えたい事があるんだ。 君に返さなければならない言葉があるんだ。 だから、待ってくれ……。 行かないでくれ。 今、君が行ってしまったら、僕はもう二度と君に会えない気がするんだ。 また君を失ってしまう、そんな予感がするんだ。 「まって……」 搾り出した声に、立ち止まる彼女の気配。 そして彼女は何かを振り切るように。 「生きてね……約束、だから……」 告げる言葉だけを残して――。 そして、扉の閉まる音がした。 ◆ 『作戦/結託』 ◆ 煌く白銀の閃光。 幾重にも張り巡らされた散弾の波が薬局を内側から蹂躙する。 暴風の如く暴れまわる一方通行による弾幕の嵐。 今度こそ手加減は無い。 至極、全力で。 離脱のための力は残すよう調節しつつも、今の一方通行は本気で敵を殺しにかかっていた。 「ちィ……!」 連射力も威力も申し分ない筈だ。 が、瞬殺、とはいかない。 本日何発目とも定かではない銀球が白井黒子へと放たれる。 瞬間移動での逃げ場を削り削った上での完璧な一撃。 避ける術はない、にも拘らず。 「よろしくお願いしますの!」 「――了解です!」 入れ替わるように前に出たファサリナによって阻まれる。 展開されるプラネイトディフェンサー。 その援軍は鬱陶しいことこの上ないものだった。 「そりゃもうとっくに、見飽きてンだよッ!」 攻略法は先程の戦闘で既に把握している。 電磁の盾は直接触れて突破すれば良い。 だがしかし……。 「頼みます!」 「ええ、跳びますのッ!」 盾を突き破り、ファサリナへと触れる前に、目標が掻き消える。 白井黒子のテレポートだ。 「相変わらずうぜェな、くそがッ!」 絶対の防御兵装、プラネイトディフェンサーとテレポーターの組み合わせは、 持久戦において壮絶な相乗作用を見せた。 かわせない攻撃を電磁フィールドが防ぎ、防御できない攻撃はテレポートで逃れる。 片方を無視して片方を刺そうとしても、もう片方がそれを阻むのだ。 「それにテメエら、闘る気あンのか? ああァ!?」 白井黒子もファサリナも、まるで攻撃を仕掛ける素振りも見せない。 どう見ても時間稼ぎ。 何かを待っている様子、先程までの一方通行と同じだ。 不気味極まりない。 「はッ、だったらいいぜ。そっちがその気ならこうしてやらァ……!」 ちょうど投げる銀球が尽きたところであった。 一方通行は薬局内の商品棚に両手で触れる。 その瞬間、並べられていた薬ビンが一斉に爆ぜた。 宙に舞う無数のガラス。 それらは一方通行の身体に触れた瞬間に、更に細かく鋭くなりて乱れ飛ぶ。 「「――!?」」 ファサリナと黒子は同時に対応する。 様々な軌道を描いて迫ってくるガラス片に対して、防ぐ、避けるを交互に請け負って凌ぎ続ける。 「甘ェなァ」 それを凌ぐだけでもはや彼女達は限界であったのか。 一方通行に次なる攻撃に対応する事は出来なかった。 振り上げ、下ろされる一方通行の足。 それが地盤を踏みつけた瞬間に、衝撃が床を伝い。 黒子の足元が突如炸裂した。 「なっ……!」 その隙を見逃さず、一方通行は大きく迂回し、コーヒー缶を投擲する。 「そこだァッ!」 すぐにファサリナがプラネイトディフェンサーを再展開するも、間に合わない。 「ぎッ……がッぐっ……」 形容しがたい悲鳴が黒子の口から漏れ出した。 壮絶な勢いで後方に飛ばされる。 視界には自らの血しぶきと、肩を貫いたコーヒー缶の軌跡。 数瞬の間を置いて、黒子は壁にたたきつけられた。 遅れて凄まじい激痛が、左肩から湧き上がってくる。 これでは痛みによって上手く計算する事など出来ない。 テレポートは、使えない。 それは戦闘続行が不可能になった事を意味していた。 だがしかし、時間はもう十分に稼いだはずだ。 全員が、前もって示し合わせた通りの位置に付けたはずだ。 「後のことは……頼みますの……」 朦朧とする意識の中、黒子は後の全てを仲間に託した。 「これで終いかァ……?」 その一方通行の問いを、ファサリナは肯定した。 「ええ、もう十分でしょう……」 そうして、作戦の開幕を宣言する。 「それでは皆さん。よろしく、お願いいたします」 一番最初に答えたのはグラハム・エーカーだった。 「了解だ!」 奥の商品棚に潜んでいたグラハムは商品棚を飛び越えて、両手に握った銃と鎖鏃を連射する。 一方通行に触れた瞬間に炸裂する黄金光。 「……ッ」 咄嗟に一方通行が投げた薬ビンが鎖鏃を粉砕する。 だが、左手のGN拳銃はいまだ健在。 「今だ! 阿良々木少年!」 後方に向かって叫びながら、グラハムはGN拳銃を連射する。 「くそったれ! はははッ! なンなンだよその銃は!」 その燐光を、一方通行はやはり完全に反射する事が出来ない。 なんとか弾くたびに、後方によろめいてしまう。 だがその窮地に、何故か彼は笑顔を浮かべてしまっていた。 「ざけンなよッ! そンなもン反則じゃねェか! はははははッ!」 殺されるというのか、止められるのか、ここで。 そんな思考が彼の脳裏にあった。 何故だろうか、それが最高に笑えたのだ。 「はははッ……あ?」 そして視界の隅に見る。 こちらに向って駆けて来る、二人の人影。 戦場ヶ原ひたぎと、阿良々木暦が、先程自分に脅威を感じさせた巨大な銃器を持って駆けて来る。 「――――!」 このとき、一方通行は敵の意図を悟った。 グラハム・エーカーの銃撃を凌ぐだけで精一杯のこの状況。 目の前の男は弾切れの瞬間に殺してやれるが、その前に新たな銃撃が来る。 あの巨大な銃による。 解析しきれていない攻撃手段が、今度は近距離から打ち込まれる。 確かにそれなら、いかに一方通行といえど凌ぎきれるかわからない。 グラハム・エーカーの銃撃か、GNビームキャノンの銃撃か、 そのどちらかがこの身に届く事も大いにありえるだろう。 「はッ」 今度こそ本当に窮地だと実感して、それでも一方通行は小さな笑みを漏らしていた。 時系列順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅡ Next 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 投下順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅡ Next 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ 一方通行 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ 白井黒子 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ C.C. GAME OVER 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ 戦場ヶ原ひたぎ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ ファサリナ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ 阿良々木暦 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ グラハム・エーカー 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ 枢木スザク 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ ユーフェミア・リ・ブリタニア 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅡ インデックス 280 疾走する超能力者のパラベラムⅣ
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作者・◆VxAX.uhVsM氏 第六弾です。 これまでかつてないほどカオスになると思います。 1/19 リスタートしました DOLバトルロワイアル4thSS目次(未編集) DOLバトルロワイアル4th参加者名簿 DOLバトルロワイアル4th参加者名簿(ネタバレ) DOLバトルロワイアル4th死亡者リスト DOLバトルロワイアル4thルール・マップ
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ぽかぽか時間 ◆aCs8nMeMRg D-5エリア、政庁7階の情報管理室。 魔術師──荒耶宗蓮と、剣士の英霊──セイバーとの戦いによって滅茶苦茶になったその部屋で、 東横桃子とルルーシュ・ランペルージは、名簿や筆記用具などを取り出し、桃子が聞いたという放送の内容を確認していた。 「……っと、放送の内容は以上っすね。こんな感じで大丈夫っすか?」 桃子の話は、声色などの細かいニュアンスが伝わらないのは致し方ないが、ルルーシュに放送内容を理解させるには十分だった。 「ああ、荒耶の事と言い、よくやった桃子」 あの黒い魔術師は、通常取り得る手段ではルルーシュ達に情報を与えることなど無かっただろう。 情報を入手するためにはルルーシュが持つ絶対遵守の力、ギアスを使う必要があった。 しかし、情報を聞きたいがためにギアスを温存し、その結果自分達が死んでしまっては元も子もない。 左腕を切り落とされてなお魔術を使用してきたその時点で、ルルーシュは作戦を生け捕りから抹殺に切り替え、 一人に対して一回しか効かないギアスの使用を決断したのだ。 その後の桃子が取った行動は、ルルーシュの意図通りであったとも言える。 (またそのセリフっすか……でも、今度は真面目な顔っすね) 桃子はタワーで車のパスワードを当てた時にも同じようなセリフで褒められた。 その時はルルーシュが胡散臭いほどの爽やかな笑顔だったため、かえって信用できないと思ったが、 今回はルルーシュが考え事をしながらであったが故に、その言葉は真剣な表情で発せられ、以前と違う印象を桃子に与えたのだ。 それはともかく、桃子は放送の中でも特に気になっていた部分に関して、ルルーシュの意見を聞いてみる事にした。 「えーっと、今回の新ルールっすけど、ルルさんはどう思うっすか?」 「そうだな……」 ゲーム開始時からこれまで、一度も思考を止めていなかったルルーシュの頭の中では、既に主催者についての考察は数十種に及び、脱出プランも十種類近くを検討していた。 今は、その中から今回の放送内容と合わせて、可能性が高そうなもの選別したりしているところだ。 その考察の内容自体は、桃子に語ってもいいのだが……。 (……魔術とやらを、直に見せられたからな) ルルーシュは最初から、音声などは首輪を通して主催者側に筒抜け、なお且つ監視カメラ等による映像情報も主催者側は得ているだろうと予想していた。 島全体が、ブリタニアの機密情報局に監視されていたころのアッシュフォード学園のような状態だ。 しかし、本物の魔術を目の当たりにしたおかげで、それ以外の可能性も考慮せざるを得なくなった。 遠藤という男が最初に言っていた「魔法」について気にはなっていたが、内容があまりにも不明瞭だったため、 これまで実在するかどうかは半信半疑だったのだが、これからは、魔術による監視、 すなわち、透視や千里眼のような力で監視されている可能性も考えなくてはならない。 盗聴や監視カメラに対する対策なら幾つか思いつくルルーシュだが、魔術に関してはフィクションの物しか知らず、 現存する魔術に対して、どういった対策を取ればいいのかは分からない。 細かい文字での筆談すら無効の可能性も否定はできないのだ。 先ほどの戦闘で見た限りでは、おとぎ話のような万能の力というわけでもなさそうだったが。 (……その辺りも、荒耶から聞き出したいところだったな) 無論、脱出を企てる参加者がいることなどは主催者側も想定しているはず。 プロフィールなども把握されているなら、ルルーシュなどはゲームに反逆するであろうことも主催者側は予想済みだろう。 だからこそ、ルルーシュは自身の言動から主催者への敵対心を隠さない。 むしろ、ルルーシュが脱出できるかどうかさえ、賭けの対象にでもなっているかもしれない。 だが、あまりにも真に迫った言動を見せすぎると、さすがに主催者から警戒はされるだろう。 何せ、ルルーシュの考えではこの主催者は……。 「恐らく、帝愛とやらがこんなゲームを主催するのは、今回が初めてか精々1,2度ある程度なのだろう。 ゲームのルールや運営方法を模索中と考えれば、辻褄も合う」 とりあえずルルーシュは、桃子でも予想のつきそうな範囲で推論を話した。 今までの主催者側の言動から、このゲームが回数を重ねて成熟された物であるとは考えにくい。 参加者の思考をそちら側へ誘導するためである可能性も考えられなくはないが、わざわざそんな事をしても主催者側のメリットは少ないはずだ。 だから付け入る隙はあると言った事や、首輪の解除に関してはとりあえず触れずに、ルルーシュはそこで一旦言葉を切った。 (もっとも、帝愛の裏にいる者に関しては、まだ情報が少なすぎて分からないが……) ルルーシュは、帝愛の他にこのゲームに関わる者が裏にいることを確信していたが、その事をここで話す事はしなかった。 桃子も、それ以上主催者側の意図に興味は無いらしく、二つの首輪を取り出して話題を変えにかかった。 「それでこの首輪、どうするっすか?」 「フム、少し見てもいいか? 汚れの無い方がセイバーのものだな?」 桃子が取りだした二つの首輪。 一つは荒耶宗蓮の首輪。 拭ってはあるが、七天七刀で荒耶から切り取って一度血塗れになったため、多少の汚れは残っていた。 もう一つはセイバーの首輪。 こちらは、セイバーの死と共に彼女の体が消滅したため、血糊が付く事も無く綺麗だった。 ルルーシュはその二つの首輪を持ち上げ、回し、裏側を覗いたりして首輪の構造を確かめていった。 (やはり、荒耶の首輪の方が少し軽いか) ルルーシュの思った通り、持ち上げてみると荒耶の血で汚れた首輪の方が、セイバーの首輪よりも若干軽く感じた。 これは、主催者側の人間である荒耶の首輪が、爆破機構などが付いていないダミーである為と推測できる。 逆に、正規の参加者である者の首輪にはそういった機構が搭載されていることの証明にもなる訳だ。 「換金した方がいいっすかね?」 「いや」 ルルーシュは首輪をコトッと置くと、桃子に視線を移して答えた。 ルルーシュとしては、今後首輪を解除するためにも、解析用に首輪のサンプルは確保しておきたいところだ。 ダミーの方も、爆発を心配しなくて済む分、本命の首輪を解析するための手掛かりになるかも知れない。 しかし、優勝を目指している桃子にそれを言っても納得はしないだろう。 他の理由が必要だった。 「結論は交換機とやらに用意されているラインナップ次第だが、武器なら元々持っていた他に、 荒耶とセイバーから回収した分もある」 そう言ってルルーシュは、自分が目を覚ますまでに桃子が調べていた支給品の数々を眺めた。 「それに、時間経過で商品が追加されるのなら、今から焦って交換する事も無いだろう。 島の各所に交換ボックスがあるのだから、それまでは首輪の状態で持っていた方が何かと都合もいい」 「でも、武器は多いに越したこと無いんじゃないっすか?」 桃子は、デイパックにはいくらでも物が入るのだから、多すぎて困ることは無いと反論した。 「そうでもない。確かに、武装が豊富ならば戦いを有利に進めることは出来るだろう……」 「それなら」 話の途中で口を開いた桃子を、ルルーシュはまあ待てとなだめる様なジェスチャーで制する。 「だが、もし何かの理由で敵対する者にデイパックを奪われたら、今度はそれが大きな脅威となる」 相手の武器やKMFを奪うのは、ゼロとしてブリタニアと戦っていた頃からルルーシュの常套手段だったし、 兄であるシュナイゼルとの決戦では、それまで自分の部下であった黒の騎士団に苦戦したという経験もある。 そんなルルーシュだから、武器を奪われたときの危険性も重々承知していた。 「んー、分かったっす」 桃子としても、自分が荒耶のようにビームサイズで両断されるようなことになるのは御免だ。 その後も多少の問答はあったが、とりあえず作戦を考えるのはルルーシュに任せ、桃子は首輪をルルーシュに預けることにした。 そうして首輪の話がまとまったところで、どこからか別の人物の声が聞こえてきた。 『ザザッ──もしもし、聞こえますか?』 「ん?」 桃子は少し驚いたようで、辺りをキョロキョロと見回していたが、ルルーシュが慣れた手つきで通信機を装着するのを見て、 そういう事かと、ルルーシュにならって通信機を取り出す。 今のは平沢憂の声だ。阿良々木暦の死体を確認しに下へ行っていたはずだが、向こうで何かあったのだろうか? 「憂か、どうした?」 『あ、ルルーシュさん。目が覚めたんですね。あの、桃子ちゃんは……』 ルルーシュが応答した瞬間は、通じた事に安心した為か明るい様子だったが、すぐにその声色は曇った。 「はい、なんすか?」 ルルーシュと同じ様に通信機を装着し終えた桃子が、憂の声に答えた。 『えっと、阿良々木さんは窓から落っこちたんだよね?』 「そうっすよ」 桃子の返答にしばしの沈黙の後、再び通信機を通して憂の困ったような声が聞こえてきた。 「いないの。……阿良々木さんが何処にも」 「何?」 「……はい?」 それを聞いて初めて、ルルーシュと桃子は阿良々木暦が突き破った窓を覗き込み、下の様子を確認した。 確かに、阿良々木の死体らしきものは、ルルーシュと桃子からは見えない。 憂の乗った大きな蟹がのそのそと動く、どこかシュールな光景が見えるだけだ。 その蟹の様子が困惑しているように見えるのは、操っている憂の心情を反映しているのかも知れない。 「憂、地面には何か無いか? 血の跡や、何かが落ちたような痕跡は?」 『えっと、割れたガラスの破片だけです。他には何も……場所は合っていますよね?』 そう言って、憂はそれまで地面に向けていた視線を上げ、窓から突き出ているルルーシュ達の頭を見て手を振った。 「憂、ともかく一度戻って来い」 『え、でも……』 ルルーシュの言葉に、憂は不満気な声を上げた。 この距離では表情は分からないが、阿良々木を捜したいという意思はありありと見てとれる。 「あまり独りで外にいるのは危険だ。敵は阿良々木だけでは無いのだぞ」 『あ…、はい』 ルルーシュに言われ、憂は阿良々木に拘るあまり失念していた、自分が殺し合いの舞台におり、 何時、誰に狙われるのか分からないという事を思い出し、そそくさと政庁の中へ戻って行った。 「一体……、どういう事っすか?」 「その話は憂が戻ってからだ。まずは支給品を片付けるぞ」 一方、桃子も阿良々木の死体が無い事に動揺しているようだったが、ルルーシュはそんな桃子を軽くなだめると、 ひとまず、出しっぱなしだった支給品を片付けだした。 その際、ルルーシュは破壊されたPCのパネルやフレームなども一部回収していたようだ。 そうして、荒耶の支給品はルルーシュが、セイバーの支給品は桃子が、それぞれ自分のデイパックに入れ終えたところで、 おもし蟹に乗った憂が情報管理室に戻って来た。 「ただいまでーす」 そして、三人は消えた阿良々木について話し合う。 「まず、阿良々木がこの窓から落ちたのは間違いない。そうだな?」 「はい、間違いないっす」 ルルーシュの問いに、桃子が頷く。 「だが、下には阿良々木の死体どころか、痕跡すら無かった……」 「はい。ああもう! 阿良々木さんは何処に行ったんですか!?」 今度は憂がルルーシュに答え、更にイライラした様子で感情をむき出しにしていた。 (ん? 阿良々木に何かされたのか?) ただ取り逃がしただけにしては、憂の反応は感情的すぎる気がしたルルーシュは、内心首を捻った。 「空でも飛んだっすかね?」 「状況から考えると、その通りかも知れないな」 「空……」 桃子が何気なく発した一言に、ルルーシュは割と真剣に答え、憂は窓から空を見上げた。 「阿良々木自身がそういった能力を持っていたか、あるいは何らかの道具を持っていたのか……」 「飛んで行ったとしたら、あっちですよね!?」 唐突に憂が窓の外を指さしてそう言ったかと思うと、返答も待たずおもし蟹に飛び乗り、部屋から出て行った。 どうやらかなりイライラが募っていたようで、大人しく議論などしていられなくなったのだろう。 「おい、待て憂!」 「ちょっと、どこ行くっすかー」 ルルーシュと桃子も制止を呼び掛けながら部屋を出たが、憂は二人の声などまるで聞こえないかのように、 おもし蟹を操ってズンズンと進んでいく。 「チッ」 ルルーシュは右腕を押さえながらその後を追ったが、少し追いかけて追い付きそうにないと判断すると、 一つ舌打ちをして、荒耶の持っていた支給品からS W M10 “ミリタリー&ポリス”を取り出した。 「え、ちょっとルルさん?」 後を追いかけてきた桃子がそれに驚くのを横目に、ルルーシュは手にしたリボルバーの引き金を引き絞る。 パン! 乾いた音が、廊下に鳴り響いた。 「きゃ!?」 この音には憂も肩をビクッとさせて驚き、走らせていたおもし蟹を止めて後ろを振り返った。 そうして憂が目にしたのは、自分に対し拳銃を向けているルルーシュの姿だった。 「あ……」 その姿に、ルルーシュと初めて出会った時、いきなり機関銃で撃たれた記憶が憂の脳裏に蘇り、憂の身体が竦み上がった。 それまで襲う側だった憂にとって、あれはかなり応えたのだ。 もっとも、ルルーシュが今手にしているのは、その時の機関銃とは比べ物にならないほどチャチな拳銃だったが、 ルルーシュが──自分に──銃を向けている、というこの状況だけで、憂にとっては十分だった。 「やめて…!撃たないで……!」 色々な事が吹っ切れた今の憂でも、その時と同じ様にか弱く抗議をするのが精いっぱいのようだ。 「蟹から降りろ」 そんな憂に対し、ルルーシュは冷たい瞳と低く抑えられた声で威圧する。 「は、はい」 憂はルルーシュの言う通りにするしか無く、慌てて手綱から手を放し、おもし蟹から降りた。 「蟹を仕舞え」 次のルルーシュの命令に、憂はあたふたとおもし蟹をデイパックに入れると、 そのデイパックを足元に置いて両手を上げて、懸命に抵抗する意思が無い事を示そうとした。 「あ、あ、あの……」 しかし、何か言おうとして口を開いてもうまく言葉にならず、憂はハンズアップの姿勢のままその場で固まってしまった。 「お前は二度、阿良々木と戦い、そして二度敗れた。これが現実だ、受け入れろ」 「でもあれは、ちょっと油断し、て……」 言い終わらない内にルルーシュが、銃を構えたままツカツカと歩み寄って来るのを見て、憂はしまったと思った。 何とか銃を下ろしてもらいたかったのに、阿良々木の名前を出され、つい反応してしまったのだ。 この状況でルルーシュに反抗しても、何もいい事など無いのは分かっていたのに。 「…憂」 「……っ!」 とうとう、手を伸ばせば届く距離にまでルルーシュが近づいて来て、憂は体の姿勢はそのままに顔を背け、ギュッと目を瞑る。 そんな憂の前に立ったルルーシュは、構えていた拳銃を下ろし、口を開いた。 「すまなかった」 ルルーシュの口から出てきたのは謝罪の言葉だった。 「ごめんなさい!!……え?」 撃たれはしなくとも、殴られるくらいは覚悟していた憂にとって、完全に予想外の展開だ。 「今回の事は、それだけの装備があれば策など不要と阿良々木を侮り、何の作戦も無しにお前を行かせた俺のミスだ」 「そ、そんな。ルルーシュさんのせいじゃありません!」 銃をしまい、申し訳なさそうに自分の非を説明するルルーシュに、憂は今まで上げていた手を顔の前でブンブンと交差させ、フルフルと首を振った。 「あれは私が悪かったんです。何度も殺すチャンスはあったのに、油断して……本当にごめんなさい!!」 改めて振り返ると自分がとても愚かだったように思え、憂は深々と頭を下げる。 そんな憂に対し、ルルーシュはこれまでから一転、優しげな声を発した。 「顔を上げろ、憂。もしまた阿良々木と出会ったら、次は俺からももっと指示を出す。 大丈夫だ、悪いようにはしない。…………ぐっ!」 言い終わると、ルルーシュは骨折している右腕を押さえ、顔を歪めて苦悶の声を上げた。 「ルルーシュさん? もしかして腕が……」 「ああ、折れている。手当てがしたいんだが、手伝ってくれるか?」 「あ、はい!」 そんなルルーシュの言葉に、憂の表情がパァっと明るくなり、勢いよく頷いた。 「やれやれっすね」 ルルーシュが発砲してからずっと黙って一歩引き、成り行きを見守っていた桃子が、 そんな二人のやり取りを見て、小声でつぶやいた。 (ルルさんって、すごい女ったらしなんじゃないっすかね?) 桃子がそんな事を考えながら、先ほどルルーシュが撃って空いた天井の穴を見上げていると、 ルルーシュが桃子に振り返った。 「どうした、桃子。行くぞ」 「あ、はいっす」 名前を呼ばれて桃子は、落ち着ける場所で手当てをするために歩き出していた二人の後を追いかけた。 そうして三人は近くにあった、テーブルや椅子、ソファ、観葉植物などが置かれた休憩室のような部屋に入ると、 ルルーシュと憂はテーブルの上に応急処置セットや現地調達の医薬品を出し、ルルーシュの腕の応急処置を始めた。 ルルーシュが先ほど回収したPCのパネルやフレームの中から、ちょうど良い大きさの物を選んで添え木代わりにする。 「よし、まずはこっちを結んでくれ……そうだ。次は…………」 「はい、こうですか…………」 その間、桃子はソファに座ってセイバーの支給品にあったデバイスのような端末を調べることにした。 これには説明書が附属されており、さらに阿良々木達が作ったと思われるメモも添えられていた。 (表示されるのは……死んだ人と、その瞬間に最も近くにいた生存者の写真っすか) 一通り説明書に目を通し、端末に目を移すと、画面には【1日目午前6:00~正午12:00】との表示。 そして次に画面が切り替わると、【死亡者】にあの黒衣の魔術師、荒耶宗蓮の写真が、 【おくりびと】には桃子自身の顔写真が表示された。 (あ……これは誰かに渡っちゃうと、私の顔が割れちゃうっすかね) そんな事を思いつつ、桃子は死亡者・おくりびと表示端末の確認を続けた。 【死亡者】/【おくりびと】 荒耶宗蓮/桃子 カチューシャをしたショートヘアの少女/長い黒髪の少女 鎧兜の巨漢武者/黒肌の巨漢(メモによるとバーサーカー) 耳の尖った女性/長い白髪の男 次に表示されたのが、金髪さん(セイバー)/桃子、だった。 (どうも、表示される順番はバラバラみたいっすね) 時間的には立て続けに死んだ事になる荒耶とセイバーの順番がこれだけ離れるのは、時系列順ではあり得ないだろうし、 名簿の順番というわけでも無いようだ。 【死亡者】/【おくりびと】 セイバー/桃子 白髪混じりの男性/鼻や顎の尖った青年 赤いバンダナとジャケットの青年/紫がかった長い髪の少女 眼光の鋭い青年/黒肌の巨漢(バーサーカー) 眼鏡をかけた優男風の青年/長い白髪の男 髪を二つに纏めた少女(メモによると八九寺真宵)/白髪混じりの男性 クチビルさん(船井譲次)/眉毛さん(琴吹紬) 桃髪の外国人少女/黒肌の巨漢(バーサーカー) 眉毛さん(琴吹紬)/長い白髪の男 (これで、13人っすね) ここまでで、今回の放送に登場した13人の死者とそのおくりびとを確認した事になる。 (クチビルさんのところに居た人以外で、私に分かる人はいないっすね。 後で、ルルさんとゴスロリさんにも見てもらわないと) そう考えながら、桃子は更に端末の確認を進める。 次に画面に表示されたのは【1日目午前0:00~午前6:00】の文字だった。 どうやら、ここからは第1回の放送時に呼ばれた死者と、そのおくりびとが表示されるようだ。 という事は、これから死亡者側に加治木ゆみが表示される瞬間がやって来るという事だ。 桃子は、バクバクと心臓が高鳴るのを感じながらメモを片手に、端末の表示に目を通していった。 (先輩!!) 果たして、加治木ゆみの写真はすぐに端末の画面に表示された。 おくりびと側に映っている少女は、メモによると千石撫子と言うらしい。 しかし、そんな事は桃子にはどうでもよかった。 (ああ…先輩、……加治木先輩!!) 画面に加治木ゆみの写真が表示された瞬間、桃子の感情が爆発したのだ。 自分を欲しいと言ってくれた先輩。 自分の事を一番だと言ってくれた先輩。 デートをしてくれた先輩。 一緒に温泉に入ってくれた先輩。 一緒に旅行に行った先輩。 (先輩……私、人を殺してしまいました) 心の中で、桃子は加治木ゆみに報告する。 それと同時に手足が震えだし、体が芯から急速に冷えて行くような感覚が桃子を襲った。 それなのに目頭ばかり熱くて、涙がぽろぽろと零れる。 (なんで、こんな……) 「…はい、こんな感じで良いですか?」 「ああ、ありがとう、憂」 「いえ、そんな……」 どうやらルルーシュと憂の方は、ルルーシュの腕の手当てが終わったらしい。 今の自分の状態を見られたくなかった桃子は、嗚咽を押さえてフラフラと立ち上がり、休憩室を出て行こうとした。 しかし、休憩室の扉を開けようとしたところで後ろから腕を掴まれ、止められてしまった。 「桃子」 「ひあ!?」 自分から人の腕(主に加治木ゆみだが)を掴むことはあっても、自分が人から腕を掴まれるなどという経験のほとんど無い桃子は、変な悲鳴を上げて驚いた。 桃子が振り向くと、右腕を三角巾で釣ったルルーシュが、左手で桃子の腕を掴んでいた。 「どこへ行く?」 「放してください! ちょっと独りになりたいんすよ!」 「駄目だ。阿良々木がどこに行ったのかも分からないんだ。独りにはさせられない」 顔を伏せて独りになりたいと言う桃子を、ルルーシュが掴んだ腕を放さずに引きとめる。 桃子は何とか振りほどこうとするが、さすがにルルーシュも単純な握力や腕力で桃子に負けているわけではないので、 片手といえどもそう簡単には振りほどかれない。 「桃子ちゃん」 二人がもみ合いになりかけたその時、憂が後ろから桃子にパフッと抱き付いた。 そして「いい子いい子~」と、桃子の頭を撫でる。 「憂、そんなことで収まるわけが……」 「はぁぁ……」 「って、収まった!?」 見ると、桃子は今までで一番緩んだ表情でため息をついていた。 「ま、まあ、落ち着いたのなら良かった」 そう言いながら、ルルーシュは桃子顔にある涙の跡を拭ってやった。 「ん、すみません、取り乱したっす…………あ、あれ?」 「も、桃子ちゃん?」 恥ずかしそうに謝罪の言葉を述べ、落ち着きを取り戻したかに見えた桃子だったが、 今度はその場で膝から崩れ落ちそうになり、まだ抱きついていた憂が何とか脇から桃子の体を支えた。 「どうしたの?」 「いや、ちょっと、疲れたっすかね?」 ともかく桃子をソファで休ませることにし、憂が左脇で桃子の体を支え、ルルーシュが桃子の右手を引いて、 二人は桃子を部屋のほぼ中央にある大きなソファまで連れて行き、座らせた。 そのまま憂とルルーシュも桃子の両脇に座り、様子を伺う。 「何かあったのか?」 「いえ、えっと、その」 ルルーシュの問いに何か答えようとする桃子だが、その声は明らかに震えている。 「いや、いいんだ。無理に言わなくていい」 ルルーシュは、落ち着くまで待った方がいいと判断すると、そう言って立ちあがろうとし、軽く手を引かれた。 桃子の手を引いてここまで連れてきたときのまま、手が繋ぎっぱなしだったのだ。 反対側の憂も、桃子の体を支えていた時の状態とほとんど変わらず、桃子の左腕を抱いている。 「…………」 ルルーシュは立ちあがるのを止め、そのまま無言で座り直す。 「…………」 「…………」 「…………」 そのまましばらく、三人は無言でソファに座っていた。 「……私、孤独っすかね?」 「孤独? この状況、傍から見たら全く逆に見えるんじゃないか?」 「孤独なんかじゃないよ。こんなに近くに友達がいるんだから」 そんな中、桃子がポツリと発した言葉に、ルルーシュが逆の状況だと返せば、憂も友達だと続いた。 「と、友達っすか?」 「え、違うの?」 「うーん、良く分からないんすよ。私、同い年の友達いないんで」 桃子は、加治木ゆみ以外でも麻雀部のメンバーとはそれなりに仲良くなったと言ってもいいかもしれないが、 鶴賀学園麻雀部は桃子以外全員上級生であり、桃子に同い年の友達と呼べる相手はいなかった。 「どうしたら友達ってことになるんすか?」 「簡単だよ。名前を呼んで」 「え?」 「桃子ちゃん、まだ私の名前呼んでくれてないでしょ。憂って、名前で呼んで」 「えっと……」 戸惑う桃子だったが、自分が振った話の流れの中でのことであり、呼ばないわけにはいかなかった。 「う、憂さん、で良いっすか?」 「うーん、憂ちゃんでも良いよ」 「そ、それは勘弁して欲しいっす。こういうの慣れてないんすよ」 少し不満そうな表情を作った憂だったが、次の瞬間にはニッコリと笑顔になった。 「うん、それじゃあよろしくね。桃子ちゃん」 そういって、憂は頬ずりするほどピッタリと桃子に体を密着させる。 「う、憂さん?」 「へへっ、暖かいでしょ」 「……そうっすね」 そのまましばらくジッとしていると、いつしか桃子はすぅすぅと寝息をたて始めた。 「眠ったか」 「そうみたいです」 ルルーシュと憂が桃子を挟み、小声で確認し合うと、ルルーシュはそっと桃子の手を放し、憂に預けた。 そして、身に着けていたマントを脱ぐと、それを桃子の肩に掛ける。 「ルルーシュさん?」 「憂も疲れただろう? 休んでいいぞ」 ルルーシュはそう言いながら、デイパックの中から自分が最初に着ていた皇帝の衣装のマント取り出し、桃子と同様に憂にもそれを掛けてやった。 桃子も、憂も、二人ともこれまでの人生で殺し合いなどの経験が無い、ただの高校一年生だ。 それが、この島に来てから12時間余り、今までずっと張りつめていたはずなのだ。 ルルーシュと合流してからは、ルルーシュが多少はその辺りも気を使って緩急をつけてきたつもりだったが、 それも、もう限界だった。 そろそろ休ませないと、肝心な時に使い物にならなくなる。 「あ、はい。そうしていいですか? 実は私もさっきから眠くて……」 そんなルルーシュの意図など知らない憂が、しかしルルーシュの意図通りそう言って目を閉じるのを確認し、 ソファを離れようとしたルルーシュを、一度だけ憂の声が引きとめた。 「あの、ルルーシュさん、さっきの話なんですけど」 「ん? 何だ?」 ルルーシュが首だけ振り返り返事をする。 「次に阿良々木さんと会ったらルルーシュさんの指示通りにしますけど、止めは私にやらせてくれませんか?」 「そのことか。分かった、なるべく憂が止めを刺せるように考慮しよう」 「えへへ、ありがとうございます」 それだけ言うと、憂は再び目を閉じた。 その後、ルルーシュは桃子が落していた死亡者・おくりびと表示端末を拾い上げ、 別の椅子に腰かけると、同じく落ちていたメモと説明書を見ながら内容を確認した。 「フム、おくりびと、か。憂にも見せて確認する必要はあるが……」 憂は眠りについたばかりだ。今はやめておこう。 次に、ルルーシュは荒耶の持っていたパソコンと、ホールで手に入れたUSBメモリを取り出した。 パソコン自体の中身も確認する必要はあるだろうが、まずはUSBメモリの内容確認から取りかかることにする。 あのようにホールに置いてあったのだ。まさか単純にパソコンを壊すウイルスが入っているわけでもあるまい。 「地図か」 そうして確認できたUSBメモリの中身は、この島の地図だった。 しかし、ただ単純に支給品の中にもある地図の画像データが入っているわけではない。 地図をズームしていくと、どんどん表示が詳細になって行き、支給品の地図では確認できない細かい路地なども一目瞭然となる。 「ほう、これは……」 さらに、ある程度ズームしてから地図上の建物をクリックすると、その建物の図面が表示されるようだ。 ルルーシュは、試しに今いる政庁を画面上でクリックし、政庁の図面を表示させる。 そうして表示されたその図は、ルルーシュがこれまで見てきた政庁の構造と綺麗に合致する。 どうやら、信用に足るデータのようだ。 なるほど、これは使えそうだと、他の場所も確認してみる。 建物の図面は、支給品の地図に記載されている施設だけでなく、建物であればどの建物の図面でも見ることが出来るようだ。 このUSBメモリには、島全体の設計図が入っているようなものなのかも知れない。 (さて、もう少し見たいところだが……) それが分かったところで、ルルーシュはいったん手を止めた。 残念ながら、いつまでもこのパソコンばかり見ているわけにはいかない。 桃子と憂が眠ってしまった今、この政庁がセイバーや荒耶並の者に襲撃されたときのことを考え、 何か備えを施しておく必要があるし、この政庁で荒耶が何をしていたのかも、まだ調査できていない。 やることは山積みなのだ。 D-6の駅に向かったと見られるスザクも気になるが、その場所が禁止エリアに指定されてしまった今、いつまでも留まってはいないだろう。 放送で名前が呼ばれなかったのだから無事ではあるらしいが、スザクがどこに居るのか分からない以上、 スザクに関しては、ルルーシュが今打てる手は無い。 (ふぅ) さすがにルルーシュも多少の疲労を感じ、ソファで寝息を立てている二人を横目でチラッと見て呟いた。 「まったく、手間がかかる駒達だ」 【D-5/政庁7階休憩室/1日目/日中】 【東横桃子@咲-Saki-】 [状態]:ステルス解除、疲労(小)、睡眠中 [服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達) [装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、果物ナイフ@現実(現地調達) [道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん! 蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)、小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 七天七刀@とある魔術の禁書目録、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、不明支給品(0~1)、 [思考] 基本:加治木ゆみを蘇生させる。 1:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。 2:もう、人を殺すことを厭わない。 3:覚悟完了。ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。 4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。 5:う…憂さん。 [備考] ※登場時期は最終話終了後。 ※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。 ※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。 ※自分の起源を知りました。 【平沢憂@けいおん!】 [状態]:拳に傷、重みを消失、ぽかぽか時間、睡眠中 [服装]:ゴスロリ@現実、皇帝ルルーシュのマント [装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night、拳の包帯、おもし蟹@化物語 [道具]:基本支給品一式、日記(羽ペン付き)@現実、桜が丘高校女子制服、カメオ@ガン×ソード、 COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・10発)@現実、 包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor、双眼鏡@現実(現地調達) 通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×10個、洗濯紐 [思考] 基本:ルルーシュとバンドを組みたい。皆を殺す。阿良々木さんはもう絶対殺す。 1:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。お姉ちゃんは無理には殺さない。 2:桃子ちゃんは友達。 3:阿良々木さんをブチ殺して、お姉ちゃんのギー太を返して貰う。 [備考] ※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。 ※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。 ※第2回放送をほとんど把握していません。 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】 [状態]:疲労(中)、右腕の骨折 [服装]:歩く教会@とある魔術の禁書目録、 [装備]:イヤホン@現地制作、S W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6) [道具]:基本支給品一式×2、ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実 ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2、“狐”“泥眼”“夜叉”の面@現実 サクラダイト爆弾(小)×9、サクラダイト爆弾(灯油のポリタンク)×2@コードギアス反逆のルルーシュR2 盗聴機、発信機×9@現地制作、単三電池×大量@現実、通信機×5@コードギアス反逆のルルーシュ アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2、USBメモリ@現実(現地調達)、阿良々木暦のMTB@化物語 パソコン、ククリナイフ@現実、.38spl弾×52、ゼロスイッチ(仮)@コードギアス反逆のルルーシュR2、 CDプレイヤー型受信端末、リモコン、鉈@現実、首輪、首輪(ダミー) 死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、不明支給品(0~1) [思考] 基本思考:枢木スザクは何としても生還させる 1:政庁で襲撃に備える。 2:政庁を調べて、荒耶宗蓮が何をしていたか調べる。 3:東横桃子、平沢憂と行動を共にする。 4:殺しも厭わない。東横桃子、平沢憂、スザク、C.C.、ユフィ以外は敵=駒。利用できる物は利用する。 5:スザク、C.C.、ユフィと合流したい。 6:偽ゼロの放送を利用して、混乱を起こし戦いを助長させる。 7:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。 8:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する? [備考] ※R2の25話、スザクに刺されて台から落ちてきてナナリーと言葉を交わした直後からの参戦です。 死の直前に主催者に助けられ、治療を受けたうえでゲームに参加しています。 ※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。 ※モモから咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。 ※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。 ※おもい蟹が怪異たる力を全てルルーシュに預けました。どんな力を使うかは後の人にお任せします。 ※モデルガン@現実、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード、ミサイル×4発@コードギアス反逆のルルーシュ シティサイクル(自転車)、ジャージ(上下黒)、鏡×大量、キャンプ用の折り畳み椅子、消化器、ロープ、カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、その他医薬品・食料品・雑貨など多数@ALL現実 揚陸艇のミサイル発射管2発×2機、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス反逆のルルーシュR2、 現在支給品バッグに入れています。 ※揚陸艇の燃料…残り10キロ分 (E-5に放置されています) ※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。 ※Fー7ホールの平和の広間にてUSBメモリを入手しました。 ※第2回放送を聞き逃しましたが、桃子によって補完されました。 【死亡者・おくりびと表示端末@オリジナル】 死亡者とその死亡者の死亡した瞬間、最も近くにいた人物【おくりびと】の顔写真のみが並んで表示される。 第2回放送の死亡者、おくりびとの対応、表示順番は以下の通り。 死亡者/おくりびと 荒耶宗蓮/東横桃子 田井中律/秋山澪 本多忠勝/バーサーカー キャスター/明智光秀 セイバー/東横桃子 利根川幸雄/伊藤開司 真田幸村/浅上藤乃 刹那・F・セイエイ/バーサーカー 黒桐幹也/明智光秀 八九寺真宵/利根川幸雄 船井譲次/琴吹紬 アーニャ・アールストレイム/バーサーカー 琴吹紬/明智光秀 第1回放送までの死亡者、おくりびとの対応、表示順番は以下の通り。 死亡者/おくりびと 竹井久/中野梓 リリーナ・ドーリアン/バーサーカー 加治木ゆみ/千石撫子 プリシラ/一方通行 片倉小十郎/ライダー 池田華菜/平沢憂 中野梓/荒耶宗蓮 カギ爪の男/安藤守 玄霧皐月/田井中律 月詠小萌/バーサーカー 安藤守/平沢憂 兵藤和尊/八九寺真宵 御坂美琴/C.C. 千石撫子/琴吹紬 時系列順で読む Back secret faces Next The Hollow Shrine(前編) 投下順で読む Back secret faces Next The Hollow Shrine(前編) 177 状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察 平沢憂 197 受け継がれる想い/あるいは霊長の抑止力 177 状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察 ルルーシュ・ランペルージ 197 受け継がれる想い/あるいは霊長の抑止力 177 状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察 東横桃子 197 受け継がれる想い/あるいは霊長の抑止力
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戦場に生きる者達(後編) ◆0hZtgB0vFY 節々が痛む体をどうにかするより先に、乱れる呼吸と脈拍を落ち着けたいと思う式は、そんな思いとは裏腹に体を酷使する。 五飛より預かった剣。歪短剣よりは遙かにマシだ。 何処の名工の作かは知らないが、優れた硬度と軽量さを両立させ、神秘をすら漂わせる武器をこうして振るえるのは、悪い気はしない。 だが、最も使いやすいと思えるのは、やはり刀であろう。これではまだ短すぎる。 かといって今信長が振り回してる刀は長すぎだとは思うのだが。 守勢に回ったらあっという間に押し切られる。それは最初に刀を合わせた時から分かっている事だ。 しかしこのバケモノを相手に攻勢を維持し続けるのは至難の業。式の尋常ではない程に高い運動能力を持ってしても、である。 三人がかりで抑え込むのがやっと。それでも代償に式は吸い取られる勢いで体力を消耗してしまう。 いずれ、鈍った動きの隙をつき、信長の斬撃が襲い来るだろう。 唯一の勝機はその直後。腕か足の一本程度でこれをかわしきれれば、返しの一撃の前に一矢突き刺してやる事が出来る。 暗い煙に覆われ奇妙な程に見えずらい死の線も、あくまで見えずらいだけであって見えないわけではないのだ。 だがそれも、儚い希望かもしれない。 いや冷静に状況を見て取れる者がいれば、妄想の域を出ぬと笑い飛ばしたであろう。 それ程に、式は消耗しきっていたのだ。 信長阻止臨界点、とでも言うべきか。 式が五飛、デュオと共に信長を抑えきれる時間には限りがあって、その刻限が少しづつ迫って来ていた。 織田信長はその辺りが何処までわかっているのか、最初に遭遇した時から延々刀を振り続けているにも関わらずまるで疲労の跡が見られない。 尚壮健なまま、掬い上げるような一撃を、式へと見舞う。 同じく、下から斬り上げんとしていた式の刀と絡み合う。 『!?』 咄嗟に莫耶の背に残る左腕を押し当てられたのは、僥倖であったろう。 さもなくば、信長の斬り上げを防ぎきれず、下腹から無残に斬り殺されていただろうから。 体重を落とし更なる刀の侵攻を防がんとする式。 しかし式の体重では、疲労から術技を駆使する余裕もなくなった式の刀では、信長の剣撃を食い止める事は出来なかった。 ならばと逆に刀に重心を預けきる。 信長が委細構わず振りぬく刀に、ちょうど式は全身で乗っかる形になる。 下手に弾かれて振り抜かれれば、必ず体の何処かを持っていかれる。それも次撃を防ぎずらい形でだ。 だったらこの剛剣の威力に任せて後ろに下がってしまえという乱暴な式の策だ。 距離さえ開けられれば、デュオの銃撃も活きてくるはず。 「ぬうううううああああああああっ!!」 間接を固定し、体勢が崩れぬようにしながら信長の刀に乗って振るわれるがままに投げ飛ばされる。 バイクで加速するのとはまた違う、下腹に何かが来るような浮遊感。 そして、式の予想をすら超えた信長の、信じられぬ跳躍であった。 刀を振って跳ね飛ばした物体に、直後、自ら飛んで空中で追いつくなどと、現実に起こり得るものなのだろうか。 一体その足には何が詰まっているというのか。 先程バイクに追いすがった時のような空中からの一撃。今度はデュオと違って足を支える場所も無く、式自身も刀を振れる体勢には無い。 とんでもない勢いだ。おそらくこの速度ならば、式が大地に落着するより早く、式の着地点にすらたどり着けてしまうだろう。 最後に無理矢理踏ん張ったのがまずかったのか、式の体は意思に反してぴくりとも動かず。酷使が余程お気に召さなかったようだ。 そんな状況で、まるで他人事のように呟く。 「……お前、案外頼りになる奴だったんだな」 「でえええええええいっ!」 飛ぶ信長の、真横から駆け寄って来るはデュオ・マクスウェル。 この位置取りなぞ、それこそ信長の動きを読んでいなければ出来ぬ芸当だ。 大鎌を空に向けて放り投げると、神速の技にて銃を抜き、両手で保持して引き金を引く。 大音量と火薬の煙が鼓膜と視界を覆う中、反動を半秒で殺しきった銃を腰に仕舞い、大きく上に飛び上がる。 ぴたりのタイミングで空から降ってきた大鎌を両手で受け取り、銃撃で体勢を崩した信長に振り下ろした。 モビルスーツで散々鎌を使ってきたおかげか、癖のあるこの武器もあっさりと使いこなすデュオは、一撃必殺をしかし狙わず腕一本を叩き落すつもりで鎌を振るう。 銃弾は鎧で弾いたせいか、信長の体に衝撃がずんと染み渡る。 しかしデュオの大鎌は、マントが無数の釘状に変形し、伸び来た穂先に弾かれる。 「何だあ!?」 「愚かなり! 貴様等の児戯には飽いたと言ったぞ!」 土煙を上げ、デュオが乗り捨てたバイクが走り来る。 操るはこれまた見事な操縦を見せる五飛だ。 「乗れ!」 「おうよ! ってうおあああああっ!」 サイドカーに跳ねられそうになりながら、後部席に飛び乗るデュオ。 震える膝を騙しながら式もサイドカーに乗り込む。こちらは、座席に座るというよりは身を投げ出すだけで精一杯の様子だ。 「轢き殺す気かお前!」 「黙れ! それより後ろから来るぞ!」 デュオの文句を無視してライディングに専念する五飛。それほどに余裕が無いのだ、三人には。 文句を飲み込む程人間が出来ていないデュオは、全力で無駄口を叩きながら後方に銃をぶっ放す。 「こっちはお前やヒイロと違ってデリケートに出来てんだ! もうちょい労わりやがれ!」 15.24mmの銃弾はさしもの信長とて無視は出来ない。 受け、弾き、かわし、そんな挙動と同時にこの速度の追撃は信長にも難しい。 だが、第六天魔王の怒りを、この程度で凌げようはずもない。 光秀の大鎌、二本ある内のもう一本は、信長のバッグにしまわれたままであった。 これに、黒い闇を纏わせて、全力で振りかぶり投げ放ったのだ。 元が光秀使用物であるだけに闇のノリが良いとでもいうのか、大鎌は眼にも止まらぬ大回転を始め、刃の円となって三人に襲いかかる。 風切る轟音は死出の秒読み、瘴気に包まれ日を照り返す事すらない大鎌は、触れてすらいない大地を衝撃のみにて削り取る。 後ろを振り向いていたデュオは確信する。これをもらったら、最後尾のデュオはもちろん、前の五飛どころかバイクごと式もまとめて真っ二つにされてしまうと。 一瞬で覚悟を決める。自爆上等のガンダムパイロットは伊達ではない。 自分の体で軌道を逸らす。これなら、犠牲はデュオのみで五飛と式、そして逃亡用のバイクは生き残れる。 「あばよ、元気でやれよお前等」 陽気に言い放ち、バイクから飛び出そうとするデュオ。 その腕を、グロッキーであった式が掴む。 「……肩、貸せ」 「何?」 サイドカーより身を乗り出す式は、疲労困憊で見るからに弱々しく儚げな挙動で、デュオの肩に手を置き、刀を肩越しに振り上げていた。 「おい、お前何する……」 「アイツに比べれば幾分かは殺しやすい」 信長の武器も防具すら殺せなかったのは、それを持つ、身に着ける奴の動きが尋常のものではなかったからこそ。 こうして手を離れているのなら、近接してすら死の線を狙えぬ程の巧みな動きはありえない。 式の突き出した刀が大鎌と激突し、甲高い悲鳴を上げる。 思わずデュオが耳を覆いたくなる程、前だけに集中せんとしていた五飛ですら振り返りそうになる程、大きく響き渡った絶叫は、乾いたぱりんという音と共に消えてなくなった。 「お前、一体何した?」 「……うるさい、疲れてるんだ。しゃべらせるな」 のそのそとサイドカーに戻ろうとする式に、五飛が偉そうに命じる。 「女! お前はデュオと席を代われ! そのザマでパッセンジャーは無理だ!」 単語が意味不明すぎて反応に困る式であったが、代われというのであれば別にそれでも構わないとデュオが何かを言いかけるのも聞かず飛び移ろうとする。 「ああもう! 落ちるなよ式!」 合図をしたわけでもなかろうに、絶妙の間で走るサイドカーの上をすれ違うデュオと式。 疲れからか危うくずり落ちそうになって、五飛が式の襟首をひっ掴むといったシーンもあったが、何とか席替えも完了。 「女! お前はとにかく落ちないようにだけしていればいい! 後は俺達がやる!」 「……そもそも今は他に何も出来そうにない。オレはこれだけ働いたんだ、お前等もやる事はきっちりやれよ」 サイドカーのシートに座ったデュオは、先の五飛の台詞で何をするかは察している模様。 「おい五飛! こいつは専用のサイドカーマシンじゃねえんだから無茶はすんなよ!」 「馬鹿が! 無茶をせずにあれを振り切れるものか!」 猛烈なスピードで追ってくるのは、そう、織田信長であった。 走る速度は間違いなくバイクの方が早いのだが、下手に直線に位置してしまうと、あの意味のわからん大ジャンプで突っ込んで来る。 色々と物理を無視しすぎていて、いっそ清々しい程である。 まだ直線が続く、そんな道路で五飛はいきなり左にハンドルを切る。 明らかなオーバースピードである。対向車線に乗り出す所か、そのままガードレールを突き破りかねない勢いだ。 「こなくそーーーーーー!」 デュオはサイドカーの内側にあるバーを両手で掴んだまま、思いっきりイン側に身を乗り出す。 地面と水平になる位置まで横に倒した体。突き出した頭は、道路からほんの数センチ程の距離である。 特徴的な後ろのみつあみが、ぴんぴんぴんと三度地面を跳ねる。 こうして力づくで重心を変えコーナーリングフォースを生み出す。これこそサイドカーの特徴である。 バイク本体に乗る者をライダー、サイドカーに乗る者をパッセンジャーと称する。 サイドカーはこの二人が互いを信頼し、ライダーは自身のみでは決して曲がれぬ速度でコーナーに飛び込み、パッセンジャーは地面により近いという恐怖に耐えて体を乗り出し、全身の力でマシンを曲げるのだ。 ガードレールからは十センチ程しか余裕が無いが、それでも何とか曲がりきったデュオと五飛。 「はっ! びびってんじゃねえのか五飛さんよ! 左コーナーならまだまだいけるぜ!」 「抜かせ! お前のミスを考慮に入れたまでだ! 次は右コーナーだ! 何としてでも曲げてみせろ!」 「ば、馬鹿野郎! 後部席にゃ式が居るんだぞ!」 これは式を思いやっての台詞、ではない。 右コーナーを曲がる際は、通常ライダーのすぐ後ろにパッセンジャーが体を寄せる事でコーナーリングフォースを得るのだが、現在そこには式が陣取っており、更に疲労困憊の為大した動きを期待出来ないのだ。 泣き言を無視して右コーナーへと突入する五飛。 もちろん速度はデュオの体重移動を計算に入れてのものである。 仕方なくデュオは五飛と式の間に体をねじ込み、落ちないように式を押さえつつ、自分も吹っ飛ばぬように残る片手のみで全体重を支え、マシンが曲がりきれるよう内側に体重を寄せる。 もんの凄い重量を乗せているせいか、両腕が爆発するかと思う程の激痛が走る。 しかしその甲斐あってか、何とかコーナーはクリア。 「フン、やれば出来るじゃないか」 「やかましい! こうなりゃヤケだ! 好きなだけぶっ飛ばしやがれ! ぜーんぶ腕づくで曲げてやるぜこんちくしょー!」 サイドカーに乗ったまま突っ伏して動かないのが一人。 バイクに寄りかかるようにしながら動かないのが一人。 二人の為にバックから飲料を取り出し渡してやると、のろのろと二人はこれを口にした。 自分の分の飲料の封を切った五飛は、一人立ったままで壁に寄りかかって喉を潤す。 超人的な体力を誇る五飛とて、やはり疲れるものは疲れるのだ。 火照った体に染み渡る清涼飲料水は、何にも代えがたい程に美味であった。 数口分、全てを忘れてこれを堪能した後、五飛はあの男の事を考える。 『俺は随分と、トレーズに拘っていたのだな』 我が身を振り返り、そう自嘲する。 宇宙空間でナタクに乗ったままヒイロを待ち構えていた自分。 悪だと、そうあらんとした自身を省みて、その姿が五飛を理解者だと言い放った男にダブって見える。 こうして拘り無くトレーズを見れるようになって、初めてあの男を理解出来た気がする。 最後の時が、随分と満足気だった理由も。 「……本当に、勝手な男だ」 結局の所、やはりトレーズと和解などありえなかったし、共に何かを為すような相手でもなかった。 接点が存在するのなら敵味方としてのみであり、もし、この名簿に載っている通りトレーズがあの爆発の中生き残っていたとしても、見つけ次第殺し合いになるだけの話だろう。 それでも、殺しあう前に一言二言話をしてやってもいいかと思う程度には、五飛はトレーズのあり方を認めてやる気になれたのだった。 この場に来て、既に何度も戦闘を行っているが、やはり体の違和感は拭えぬまま。 それでもこうして戦い続ける事で、ようやく、慣れてきた。 何時からそうだったかは最早記憶にも無い。 しかし、気づいた時にはごく自然に、手足を扱うように黒き瘴気を操れるようになっていた。 天下布武の野望を燃やす度、黒き気配はよりいっそう勢いを増し、武によって日ノ本を得んとする信長の強大な力となった。 これは血縁によるものなのか。妹であるお市からも闇の気配は感じられた。 あまりに手足として馴染みすぎたせいでか、この地に来て、瘴気の力が弱まると戦闘がどうにも思うように展開しきれなくなってしまった。 失われた訳ではないのだが、常なら何も考えずとも体の周囲を漂っている黒き気配も、そうあれと念じなければ発生せぬ程度には弱まっている。 だからどうしたとゴリ押して来たが、戦果は思うように上げられぬままであった。 しかし、そんな不手際続きもこれまで。 思うように動ききらぬ体も、地の底、身の内より呼び来る黒き瘴気も、全てが信長の内にて再構成され一個の魔王として作り直された。 「調整役としては充分な働きであった。褒めてとらすぞ貴様等」 鉄の馬にて何処ぞに逃げ去った三人に、聞こえるとも思えないがそんな言葉をかける信長。 瘴気の塊を全身に這わせると、背負ったマントから闇の眷属が顔を出す。 大地より突き出す黒き刃は、狙い過たず彼方まで伸びゆく。 体の動きの調整は、最早万全と言っていいだろう。 今の信長ならば一度の反撃すら許さず、死ぬまで押し切る連撃すら可能であろう。 しかし、と信長は笑う。 「この地に集いし者の腰の抜けようは想像を絶するわ。少々不利になった程度でこのザマとはな。これが日ノ本であれば、命尽きるまで挑んで来る者は幾らでも居ようものを」 【D5東部/一日目/午後】 【織田信長@戦国BASARA】 [状態]:健康、全身に裂傷、満腹 [服装]:ギルガメッシュの鎧、黒のマント [装備]:物干し竿@Fate/stay night、マシンガン(エアガン)@現実 [道具]:基本支給品一式、予備マガジン91本(合計100本×各30発)、予備の遮光カーテンx1 、マント用こいのぼりx1 電動ノコギリ@現実 トンカチ@現実、その他戦いに使えそうな物x? [思考] 基本:皆殺し。 1:いざ戦場へ ……。 2:目につく人間を殺す。油断も慢心もしない。 3:信長に弓を引いた光秀も殺す。 4:首輪を外す。 5:もっと強い武器を集める。 6:ちゃんとした銃器を探す。 8:高速の移動手段として馬を探す。 9:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。 [備考] ※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。 ※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。 ※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。 ※トランザムバーストの影響を受けていません。 ※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。 【D5中央付近/一日目/午後】 【両儀式@空の境界】 [状態]:疲労困憊 [服装]:私服の紬 [装備]:ルールブレイカー@Fate/stay night、莫耶@Fate/stay night [道具]:基本支給品一式、首輪、ランダム支給品0~1 [思考] 1:……疲れた 2:幹也のためにできることを考える。 3:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。 4:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。 5:荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。 6:光秀と荒耶に出会ったら、その時は殺す。 7:首輪は出来るなら外したい。 [補足] ※首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。 ※荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。 しかし、彼が殺し合いに何かしらの形で関わっているのではないかと、確信しています。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました ※以下の仮説を立てています。 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。 ・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。 【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:疲労困憊 [服装]:牧師のような黒ずくめの服 [装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×70@現実、桜舞@戦国BASARA(一本のみ) [道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、メイド服@けいおん! 、 BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2、首輪×2 [思考] 基本:なるべく殺したくはない。が、死にたくもない。 1:つっかれたー 2:荒耶宋蓮に警戒。 3:明智光秀、平沢憂には用心する。 4:首輪の解析は現状の段階ではお手上げ。 5:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な [備考] ※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。 正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。 ※以下の情報を式から聞きました。 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。 【張五飛@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:疲労(中) [服装]:マリーメイア軍の軍服 [装備]:ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、干将@Fate/stay night、防弾チョッキ@現実 [道具]:デイパック、基本支給品、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、ゼロの仮面とマント@コードギアス、USBメモリー@現実 [思考] 1:ひとまず休息を取るか 2:トレーズの存在と『魔法』に対する疑念 3:人間の本質は……戦おうとしない者と弱い者への怒り 4:MSの可能性がある施設を探す (地図に名前が載っている施設(展示場も含む)はなるべくよりたい) 5: 扉を開く条件を満たしたらまたホールに戻りたい ※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。 ※サーシェスにガンダムWの世界観を話しました(サーシェスがゼクスから聞いた話を大まかに事実と認めました)。 「柱の男」じゃあ今いち呼びにくい! このシュトロハイムが 名づけ親(ゴッドファーザー)になってやるッ! そうだな……『メキシコに吹く熱風!』という意味の「サンタナ」というのはどうかな! 《ゼロとしての思考》 基本:オレが参加者の脅威となる! 1:殺し合いに乗ったものは倒す。 2:ゼロとして『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ―― 時系列順で読む Back 戦場に生きる者達(前編) Next 旋律の刃で伐り開く(前編) 投下順で読む Back 戦場に生きる者達(前編) Next 旋律の刃で伐り開く(前編) 189 戦場に生きる者達(前編) 織田信長 [[]] 189 戦場に生きる者達(前編) 張五飛 [[]] 189 戦場に生きる者達(前編) デュオ・マックスウェル [[]] 189 戦場に生きる者達(前編) 両儀式 [[]]
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夜明けのゼロ ◆1U4psLoLQg F-7、そこには巨大なホールが建っている。 周囲の都市部中央に位置するそこには、人の気配が全く無い、あたりは静寂に包まれている。 しかし、その静寂は、そこへ近づく一台のバイクが発する騒音によって破られた。 ゲーム開始より誰も立ち入らなかったその場所に、最初の訪問者が訪れようとしている。 「ただのホールにしてはあまりに大きすぎるな……やはり、この地図に記された施設には何かあるのか?」 そう言ってバイクを降りた男の名は張五飛、しかし今はゼロと名乗っている。 彼は、F-6地点で船井達とすれ違った後、バイクでこのホールの前までやって来ていた。 その理由は一つ、武器の調達である。 彼の行動方針は参加者の脅威となる事、そのためにゼロを名乗り、参加者全員の抹殺を宣言した。 しかし、それだけでは十分な脅威とは言えないだろうと彼は判断したのだ。 真に脅威足りえるには絶対的強者であることが前提として必要だ、そのためには中華刀と拳銃だけではまだまだ火力不足と言える。 なにより己がが脅威となる前に、殺し合いに乗った者に倒されてしまったら話にならない。 早急に強力な武器を手に入れる必要がある、と彼は判断した。 そのためにどう行動するべきか? 彼は考えた結果、ある仮説を立てた。 『この地図に記された施設には、何か主催者側からの「仕掛け」が施されているのではないか?』 そもそも「殺しあえ」などとのたまい、ゲーム開始からやたら手の込んだ演出をしてきた連中だ。 この島の各所に殺し合いを煽る仕掛けが施されていてもおかしくない、いや寧ろその可能性が高いくらいだ。 その仕掛けとはおそらく「隠された武器」 もちろん武器であるという確証は無い。 しかし、その仕掛けが弱者に勝ちの目を見せる程の物であるならば、恐らく武器の類だろうと踏んだのだ。 そして、本当に「仕掛け」が有るとすれば、それは地図に記される施設に違いない。 殺し合いに乗った者の手に渡る前に確保し、火力不足を補う。 そうして彼はこのホールにやって来た。 「周囲に人の気配は無いな…。」 そう呟きながらも警戒を解くことはなく、彼は自動ドアの前に立った。 ウイーン・・・ 無機質な音をたてて、ガラスの扉は何の抵抗も無く彼を施設の中へと受け入れた。 入ってすぐの広々としたエントランス内部には、五つの扉があった。 扉の配置は正面の壁にに三つ、左右に一つずつ。 「……これは何だ?」 五飛は思わず呟いていた。 扉にはそれぞれ対応する広間の名前が記されてある。 どうやらこの施設は全部で五つの広間を有しているらしい。 そして彼は更に奇怪な物を発見する。 「入場条件・・・だと・・・?」 それぞれの扉にはその先の広間の名前だけでなはく「入場条件」までもが記されていた。 右の扉から順に 1『平和の広間:参加者を一人も殺害していない者のみ入室可能、ただし同行者2人以上が必要』 2『四暗の広間:参加者を四人以上殺害した者のみ入室可能』 3『一発の広間:ゲーム開始から6時間以内のみ入室可能、6時間経過後に室内に居る者の首輪は爆破される』 4『国士の広間:第六回放送後のみ入室可能』 5『 』 となっている。 「最早、ここがただのホールじゃない事は明白だな。」 何故か、最後の扉だけは名前も入場条件も記されては居なかった。 不可解だったが、それは今考える事では無いだろう。 彼はまず『平和の広間の扉』に手を掛けた。 「…?」 しかしドアノブを回せない、どれだけ力を込めても手が表面を滑ってしまうのだ。 「……っなぜだ!?」 ためしに一発、銃弾を打ち込んでみてもドアには傷一つ付かない。 「馬鹿な……本当に、魔法だとでも言うのか!?」 二番目と四番目そして五番目の扉も同様だった。 しかし三番目の扉に手を掛けた時。 ガチャリ・・・。 扉は呆気なく開いた。 「やはり条件を満たした扉しか開ける事が出来ないのか、ならば急いだほうがいいな。」 条件が本当ならば首輪爆破の件も事実なのだろう。 早急に探索して脱出すべきだ。 彼は意を決して、扉の内側へと侵入した。 扉の向こうは非常に狭い廊下になっていた。 二人並んでは通れないだろう窮屈な通路が続いている。 いくつかの曲がり角を曲がった後、彼はようやく廊下の突き当たりのドアにたどり着いた。 ここが広間の入り口らしい。 「しかし、ここまで入り組んでいるとは…もしかすると本当に存在するのかもしれんな。」 彼が武器の調達場所にホールを選んだのは、比較的近所に在ったからという理由だけではない、この島にMSが存在する可能性を考えてのことだった。 殺し合いの道具としては強力過ぎるゆえ、その可能性は低いかもしれない、しかしゼロではない。 更に、一体だけでなく複数あると仮定するなら、そう強力すぎることもないのではないか。 少なくとも、『隠された武器』としてこれ以上強力な物は無いだろう。 彼の価値観ではそう感じられた。 ならばもしMSがあるとして、隠せる施設があるとしたらそれはどこか? 彼は『太陽光発電所』『城』『敵のアジト』そしてこの『ホール』に目星をつけたのだった。 結果、距離的に一番近かった『ホール』にやってきたわけだが、どうやらこれは正解だったらしい。 「ただのホールにしてはあまりに大きすぎること」 「手の込んだ仕掛け」 そして何より、『一発の広間の扉』の内側に入ってから聞こてきている 「謎の機械音」 「間違いない・・この施設は何かとんでもない物を隠している…」 口元を期待に歪めながら彼は目の前のドアを開いた。 結果から言うと、そこに彼が期待した物は無かった。 施設全体に比べて、かなり小さな広間の中央に一つ机がある。 その上に、USBメモリと防弾チョッキ、それに妙な布が置いてあるだけだ。 広間の中には入り口以外に扉は無い。 「ここはまだホール全体の中央部にも達していないはずだ、ハズレだったのか?」 結局彼は、この施設に何が隠されているか分からないままホールを出ることになった。 「他の扉を開く条件を満たしてからまた来れば言いだけのことだ、幸い収穫が無かったわけではない。」 あの広間で見つけた物だけではない。 実在する仕掛け。 魔法と思わしき不可解な現象。 これらを見ることが出来ただけでも価値があった。 「魔法か・・・とても信じられないが、ただのトリックにも思えない、何にせよ油断は出来ないな。」 そう呟いた彼は、再びバイクに跨り次の目的地に向かって走り出す。 周囲はまだ薄暗い。 しかし、青みがかった空の色は夜明けが近いことを告げていた。 【F-7/市街地/一日目/早朝】 【張五飛@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:健康 [服装]:マリーメイア軍の軍服 分厚いマント [装備]:ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(銃弾2発消費)@ガン×ソード ゼロの仮面@コードギアス 刹那のバイク@機動戦士ガンダム00 防弾チョッキ@現実 [道具]:デイパック、基本支給品、干将・莫耶@Fate/stay night USBメモリー@現実 ファサリナさんの三節棍@ガン×ソード [思考] 基本:オレが参加者の脅威となる! 1:殺し合いに乗ったものは倒す。 2:ゼロとして『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ―― 3:『太陽光発電所』『城』『敵のアジト』のどれかを目指し移動する 4:移動する過程で人の集まる場所に立ち寄り、参加者を見つけ次第、1か2の行動をとる 5:扉を開く条件を満たしたらまたホールに戻りたい 6:人間の本質は…… [備考] ※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。 ※バイクはデュオの私物だと思っています。 ※船井たちの顔をはっきりと確認できたかどうかはわかりません。 ※主催側が語る「魔法」について真剣に考え始めました。 ※島にMSが隠されているのではないかと疑っています。 ※妙な布が三節棍だと気づいていません。 支給品解説 【ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃@ガン×ソード】 ラッキー・ザ・ルーレットがロシアンルーレットで使っていたもの。 リボルバータイプのため、銃弾の装填数は6つ。 予備弾薬が一緒に支給されているのかは不明。 【ホールについて】 内部に五つの広間を有する巨大な施設、各広間にはそれぞれ入場条件がある。 右の扉から順に 1『平和の広間:参加者を一人も殺害していない者のみ入室可能、ただし同行者が2人以上必要』 2『四暗の広間:参加者を四人以上殺害した者のみ入室可能』 3『一発の広間:ゲーム開始から6時間以内のみ入室可能、6時間経過後に室内に居る者の首輪は爆破される』 4『国士の広間:第六回放送後のみ入室可能』 5『 』 条件を満たした者に同行していれば、誰でも入室可能? 扉の内部では謎の機械音が響いている。 『一発の広間』は一番小規模な広間で、机が一つとアイテムが三つ有るだけの部屋、アイテムは現在、五飛がすべて回収済み。 それ以外の広間の中身は後の書き手さんにお任せします。 『 』の入室条件に関しても後の書き手さんにお任せします。 USBメモリの中身も後の書き手さんにお任せします。 時系列順で読む Back なんて絶望感 Next 三人コミュニケーション 投下順で読む Back なんて絶望感 Next インターミッション――《第一回定時放送》 089 乗り損・エスポワール・スタンダード 張五飛 112 ウーフェイ再び
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crosswise -white side- / ACT2 『もう何も怖くない、怖くはない』(1) ◆ANI3oprwOY 蒼天が、にわかに曇り始めていた。 ――エリアE-1、市街地。 空虚な町が戦火にくべられ、赤く赤く燃えている。 繰り返された激烈の衝撃がコンクリートの大地に大きな爪あとを残し、上がる炎の色が空を不気味に照らしている。 耳に聞こえるのは壊滅音、怒声、銃声、爆音。鼻につくのは異臭、硝煙、火薬、血流。 ここは戦地。鉄と血と彩られた場所。限りなく幻想と近しい現実とよべる。 望む望まないに関らず、踏み入れるものは脆弱な者から順に生命を消化されていく、まるで怪物の腹の中。 「……ひゃは、ったく手こずらせやがってよォ。おかげで無駄な時間くっちまったろォが」 そんな戦火の中心地。 燃える巨大長方形の箱の群、立ち並ぶ高層オフィスビルの一棟にて。 此度の戦地の主賓といえる存在、一方通行は哄笑を上げながら、異界を見下ろしていた。 眼下に崩壊した広大な繁華街をじぃと見渡し、やがて数少ない無傷の建造物の内一つに目をとめ。 新しい獲物を見つけたと哂っている。 「そこ、か。オーケーオーケー、ンじゃさっそく殺しに行ってやるから、動くなよォ?」 大型の建造物が密集する繁華街の中でも、ひときわ巨大な施設。 『ショッピングセンター』と地図上には示される、そこに並べて建てられた立体駐車場。 この殺し合いにおいて、戦う力を持たぬ者達が潜んでいる拠点。 殺意を振りまく災厄の原点が今、狙いを定めているのはそこだった。 一方通行は目標に座標を合わせて、両足に力を込めていく。 場所を割り出したのだから踏み込んで、腕を軽く振るえば簡単に、死体がいくつか積み上がると確信し。 「……って、なンだ、まだ闘れるつもりかよ。こりねェなァ」 しかしそこで、させぬと言うように、地鳴りが一つ。 繁華街の北部近く、がらがらと瓦礫を崩し、立ち上がったのは巨大な人型の影だった。 ショッピングセンターの正面にて、防衛拠点を守らんと立つ、機械の姿。 ガンダムエピオンと呼ばれる、力無き者を庇う、最後の盾にして砦である。 「なンてな。まァそうするとは思ってたっつゥか。 その為にここまで連れて来たわけだしよ。 わかるぜわかる、不可能でもやンなきゃしゃあねェよなァ? カワイソウデスネー」 一方通行は立ち塞がる壁のような機械人形を呆れ顔で眺めながら、両足から力を抜く。 代わりに肩を回し、首の骨をこきりと一度鳴らし、言った。 「けどよォ。じゃァどうすンだオマエら? 勝ち目がねェのは分ったろォが」 容赦なき絶対者が、劣勢者に届かぬ声で問いかける。 強者は弱者を屠るもの。戦場とは、常にそのように在る。 ぶつかる二つのどちらかが強く、どちらかが弱い以上、必然の成り行きであろう。 人道倫理に照らし合わせ、どちらが正義でどちかが悪かなど、関係ない。 殺す側が強く、また生き残り、生き残った者が正義となるのがこの場所の法則(ルール)だ。 そのルールに則れば、このとき正義は彼にあった。 「こンだけの時間、俺と戦れンのは素直に褒めてやるがよ。 まだ俺の時間は三分の一も減ってねェ。 俺に力を出させずグダグダ話を引っ張るだけじゃァ、ことは動かねェンだよ」 たとえ所業が悪であろうとも、彼はこの場で間違いなく強者であるが故に。 圧倒的な優勢に立つ故に、言葉は全て真実となる。 「まァ、無駄口はこの位にして始めるか。第二ラウンドだ。 もっともこれ以上、過度な期待はできそうにねェみてェだが……」 一方通行の消耗は僅か五分にも満たない能力消費。 比べて、繰り返された戦闘の果てにエネルギーの消費を重ね限界の近い、敵の盾。 勝敗はここに、明白だった。 「じゃァな、お疲れ三下諸君。 それなりに『よくがんばりました』をくれてやるからよ、力抜いて、眠れ――」 そして目前には、晒された立体駐車場。 敵の急所を容赦なく見据え。 もう既に先の見え透いた戦場にて、一方通行は無力な抵抗者達へと、少し早めの別れ言葉を告げていた。 ■ ■ ■ ■ crosswise -white side- / ACT2 『もう何も怖くない、怖くはない』 □ □ □ □ /もう何も怖くない、怖くはない(1) 「やって……くれたな……我々はまんまと……誘導……されていたと……いう……ことか……」 そこはまるで、蒸し焼きの獄界だった。 茹で上がるような室温と、尚も上昇し続ける体温。 四方を機械に囲まれた窮屈な個室の中で一人、トリガーを握る男は孤独な戦いを続けている。 「………………っ……ご……ぁ……っ」 男は悶え苦しむように、痛烈なうめき声を漏らしていた。 「………ぎ……っ……」 心の臓はドクドクと早鐘を打ち続け、吐く息はひたすらに熱く荒い。 幾筋もの汗が額から伝い、男の眼を通過していき、やがては顎の先から落ちていく。 ポタポタと、汗の礫が、落ちる。男の膝元や、トリガーを握る腕の上に。 ボタボタと、血の滴が、落ちていく。男の口元から、零れ落ちていく。 それら一切を拭う余裕など、男にはもう残されてはいない。 だが、それでも前を見続けた。 苦しくとも、辛くとも、痛くとも。 たとえ濁りきった視界だろうとも、いまはただ前を見なければならない。 見続けなくてはならない。 緊張、高揚、混じり在った複合感情の只中で―― 「が…ぐ…はッ……はははッ!」 その男、グラハムエーカーは、己の生を実感する。 血を吐きながら薄笑う。 「ここまで、か」 結局のところ、戦況が一方的なものとなるに、そう時間は掛からなかった。 この戦いが始まってより、敵手たる一方通行との激突は計六回。 まだたったの六度しか戦闘と呼べる交差は起きていないにも拘らず、既に戦況は絶望的な様相を見せていた。 現状はもう、戦いと呼べる状態かすら定かではない。 もう、敵からの王手がかけられている。 この瞬間に、ガンダムエピオンが背に守るもの、ショッピングセンターひいてはその中にいる者達の存在が、戦況の行く末を決定的なものにした。 数分前、戦闘の最中、離脱していたはずの阿良々木暦や他のメンバーをモニターに捉えたグラハムは、軽い眩暈すら覚えた。 守るべき者達のため、これまで離した距離、稼いだ時間、その全てを無に還された瞬間である。 両儀式を武器として運用するにおいてすら、エピオンの動きにはかなりの制限があった。 そこに加えて、背後にある建造物を守りながらの戦闘続行など、誰の目にも不可能だった。 この唐突に切り替わった位置関係、不運な偶然とは思えない。おそらく誘導されていたのだろう。 一方通行との戦いの渦中で、敵の僅かな隙を見つけ出し、空中戦に持ち込むという攻めに出た、あの瞬間に。 攻めた、勝機を掴んだ、そう思ったことがそもそもの間違い。あれらは全て一方通行の誘いだったのだ。 グラハムと式をここへ誘い出し、手っ取り早く、グラハムとその仲間全員を葬る為の罠だった。 そうして、賭けに破れた者は代償を支払わされる。 そこから先はもう、説明するまでもない。 何一つ見所の無い時間稼ぎだった。 ガンダムエピオンは外堀からじっくりと埋めるようにいたぶられ、その損傷を増やしていった。 数手先の”詰み”が決定された戦いとはかくも無様なものである。 それでもグラハムエーカーは背後の守護対象を守りきりながら、これまで二度の襲撃をやり過ごしていた。 自らの身体にかかる負担すら無視した機動で動き、そのスピードを制御し、 ショッピングセンターを守り抜きながらなお、エピオンの装甲も落されていない。 正しく、驚嘆するべき諦めの悪さである。 その代償が、 「ぎ……ぐ……ッ」 自身の身体の限界だった。 やはり、エピオンの装甲、背後に守る仲間の命、双方を同時に守り抜くなど不可能であった。 不可能を可能にする為、彼は自らの身体を生贄にしようとしている。 現在進行形でグラハムエーカーの五体は崩落の一途を辿っていた。 この戦いにおいて幾度も繰り返した無茶苦茶な航行の数々。 たとえ装甲の内側とはいえ、エピオンの機体スペックをフルに活かした高速機動をこう何度も繰り返しては、 パイロットスーツすら着用していない彼の肉体に看過できないダメージが蓄積し続けるのは自明であった。 そして、崩落が近いのは彼の身体だけではない。 たった数度の戦闘で不落の盾(装甲)に、崩壊の兆しが見えている。 サイドモニターにはエピオンの肩部に立つ、両儀式の姿。 彼女の蒼眼が装甲を透かして見るように、こちらへと真っ直ぐに向けられていた。 グラハムにも、彼女にも、実の所は分っている。エピオンの盾(装甲)はもう長くもつまい。 この戦法では既に敗北していると。 「すまなかったな……私の我が侭につき合わせてしまった」 聞こえてはいないだろうが、グラハムは申し訳無さそうに詫びる。 事実、両儀式にはグラハムのやり方を押し付ける形になっていた。 この戦い、この戦法に、両儀式は付き合う必要が無かった。 彼女にしてみればこの戦いはまずいかに勝負の土俵に立つか、接近を成し遂げるか、から始まるのだ。 大質量の圧殺攻撃がこない、かつ邪魔の入らない一騎打ちに望んでこそ、勝敗の是非が問われる。 それをこのような回りくどい戦い戦法で戦ったのは、ひとえに『何よりも優先して時間を稼ぎたい』と考えたグラハムの意向。 実際グラハムは、一方通行を殺しえる両儀式の刃を積極的に『殺すために刺す刃』とせず、主に『力を抑えるために向ける刃』として使っていた。 安全性と確実性を優先したとも、消極的ともいえるこの戦法は全て、仲間を、一人の少女を救いたいがために。 だが状況がこうなってしまっては裏目以外の何物でもない。 グラハムエーカーはここで脱落する。それはもう、半ば決定された事実であるのだから。 「だが、責任くらいは、残された勤めくらいは果たすつもりだよ」 グラハムエーカーはここで終わる。 死する。これはもう避けられない顛末である。 機体の状況、身体のコンディション、そして何よりも場の状況が、 これ以上の戦闘続行は死に至るだろうと告げている。 だがそれでも退く気は無い。 不退転の覚悟で望む。 たとえ、死ぬことになろうとも。 「私はまだ……負ける気など皆無だ……!」 空で戦い、死ぬなら本望。 軍人として、空に憧れた者として、死に場所として悪くない。 ただしそれは本懐を果たしてからのこと。 「守ると誓った者達を、決して傷つけさせはせん。たとえ敵が何者であろうとな!」 己の背後に守るべき者達がいる限り、その脅威を打ち倒さずして、どうして死ねようか。 その勤めを果たさずして、どうして諦められようか。 いいとも、来るがいい怪物。この命を喰らうがいい。 ただしその時こそ、勝利の時だ。 ああ悪くない、姫を守る騎士の役。悪と刺し違えてでも貫く、守護と正義。 乙女座に生まれた男子として、心踊らぬ筈が無い。 「行くぞガンダム、最後の戦いだ」 そしていつも敵はそこにある。 ずっと、強敵(とも)はここに在ったのだ。 グラハムエーカーは今、真実、ガンダムとの最後の対決に挑んでいる。 今までずっと、外側からぶつかり合い、そして超えようとあがいてきた存在。 心を捉えて止まなかった存在の、その内側にいま、グラハムはいるのだ。 ならばこれこそが真のせめぎ合い。 内側より超えて見せろと、その声が聞こえるようだ。 最後の戦いがガンダムであったなど、 やはりグラハムとガンダムは運命の赤い糸で結ばれていたに違いない。 守るべき、者。 戦うべき、存在。 二つの思いがグラハムを最後の空へと舞い上がらせる。 恐怖は無い。ただ胸の高鳴りだけがここに在る。 ならばその感情に、一体何と名前をつけようか。 と、今更問うまでもあるまい。 「ああ、この気持ち――まさしく愛だッ!!」 恐怖は無い。 何も怖く無い、怖くは無い。 グラハムエーカーは、グラハムエーカーとして、ただ愛だけを胸に、最後の空を飛んでいた。 □ □ □ □ /もう何も怖くない、怖くはない(2)/あるいは阿良々木暦の俯瞰風景『もう何も恐くない』 ショッピングセンター第一駐車場。 ショッピングセンターと直接連結された立体駐車場であるその五階に、僕等は逃げ込んでいた。 向かい側のビルに陣取ったナイトメア(枢木曰くガレスというらしい)による砲撃と、余波。 それによって追い立てられるように辿り着いた場所で、柵の向こう、広がるビル街を見ていた。 目の前の、殺し合いを見ていた。 「先ほども言ったように、僕達は現在、ランスロットと分断され、孤立状態にある」 枢木の淡々と語る声、だけどあまり耳には入らない。 見守る戦場は、圧倒的な、もう見ていられないほどに、こちらの劣勢だった。 グラハムさんの操るガンダムエピオンは既に数多くの損傷を負い。 なおも僕らのいる駐車場を死守するために傷を増やしている。 「機体は瓦礫に飲まれたか。あるいは破壊されたか。 分らないがどちらにせよ、大通りの道が瓦礫で塞がれている以上、徒歩では回収に向えない」 薄汚れた立体駐車場の床と天上に囲われて。 僕はここにいる。 天江もいる。 枢木もいる。 インデックスだって無事にここまで逃れていた。 だけど、ディートハルトはいない。 彼は砲撃の際、一瞬だけ僕等を守る動きを見せた後、ナイトメアごと瓦礫の雨に飲まれてしまったらしい。 周囲のビルやショッピングセンターの外壁が砕けた際の、コンクリートの落石。 その光景を見たのは僕じゃなく、枢木だ。 ディートハルト自身はランスロットが行動不能に陥る一瞬前に、機体を乗り捨てるように飛び降りて離脱していたらしいけれど、その後の足取りは分らない。 同じようにランスロットも、土の下に埋まっているのかどうかも、今どこに在るのかさえ、瞭然としないようだった。 この立体駐車場の五階、作の向こうは広大な町が広がっていて、だけどから見下ろせる範囲内には見当たらない。 「ここから死角になる、ショッピングセンターの側面。ランスロットはおそらくそこに在る。 状態は不明だが。 消去法からしてもそうだし、僕が最後に視認した位置でもある。まず間違いない」 枢木は接続した義手を試すように腕の間接を曲げながら、そんなふうに語っていた。 「僕の腕が治っても……このままじゃ無意味だ」 事実を、冷たく語っていた。 だけどこのとき僕は、それどころじゃなかったんだ。 「グラハム!」 天江の叫びが聞こえる。 この島にきてから、僕は無力に打ち震える以外のことが出来たろうか。 自問したところで答えは明らかに、否だった。 誰の目にも、僕には何も出来ていない。 それじゃあ何がしたかったのか、そんな事を今は思う。 「グラハムっ……!」 少女の手を、天江の手を掴みながら。 「よせ……もう無理だ……っ!」 そんな、諦めの言葉を告げながら、戦場に近づこうとする天江を押さえ込んでいた。 僕にはそんなことしか、出来ずにいた。 「あららぎ……」 天江はようやく僕の存在に気がついたように、身体から少しだけ力を抜く。 「このままじゃグラハムが……」 その質問に、僕はつい枢木を見る。 傍らに立っていた枢木は、目を閉じて、首を振る。 「現実的なことだけを言うと、あの戦場はもうすぐ敗北に終わる。 グラハムさんの立てた戦術では、もう一方通行を打倒できないことは明らかだ。 彼もそれをよく理解している。だからああして、僕等を守ることだけに時を費やしているんだろう。 もってあと二回。早くて一回の交戦で、エピオンは落される」 枢木の言葉は、絶望的な状況を箇条書きするようだった。 「じゃあ、どうすればいい?」 「だから、どうしようもない。彼らの戦場に僕らが介入することは……残念だけど出来ない。 僕の腕が治ったところで、ランスロットが瓦礫の向こうにある以上はね。 いま僕達が生きるためにやるべきことは、グラハムさんを助ける事じゃない。 どうやって、戦う術を手に入れるか、だ」 枢木の言葉は酷く残酷なようで、正しい。 僕らが第一に考えるべきはグラハムさんが落ちたあと、如何にして一方通行と戦い続けるかだ。 そのためにまず、瓦礫の向こう側にあるランスロットを回収しないといけない。 枢木がショッピングセンター前にあるその機体を再度駆り、一方通行と戦える構図を作る。 その上でじゃないと、ルルーシュとの連携は図れない。 「まずはここから出て、ランスロットにたどり着くために、砲撃を止めなければならない。 対面するビルの、あのナイトメアを抑える必要がある。 となるとここから迂回してビルに侵入。そして最上階にある敵機を叩く。 確実に敵パイロットからの反撃が予想されるが、それでもこちらから動かないことにはジリ貧だ。 警戒するべきはグラハムさん達の戦闘の余波だけど……」 「待ってくれ」 分ってる。 でも駄目だ。それじゃ遅い、遅すぎるんだよ。 「ここからランスロットを直接回収することは出来ないのか? 多少は危なくても、そのほうが迅速にルルーシュと連携でき」 「駄目だ。リスクが高すぎる。 道中でガレスの射線に入ることになる上に、 そもそも直接回収にむかったところで、どうやってあの瓦礫をどかすつもりだ?」 取り付く島も無い。 「ディートハルトが機体を手放した以上、ランスロットの自力復旧は見込めない。 僕の持つ機械による遠隔操作にすら反応を示さないとなると、どうしても他の機動兵器の手が欲しい。 戦闘中のグラハムさんにそれが出来ないなら、やはりあのガレスを押さえるしか方法は無いだろう」 どれだけ正しくても、その言葉は天江を見捨ていることを意味している。 「敵機があの場から動かない理由は、やはり僕等をここに釘付けにするため。 追撃が来ないのはパイロットとしての運用が不可能だからと推測できる。 となると敵はこちらを監視できて、なおかつ機体を守れる場所にいるだろう」 天江の命はきっと、それまでもたないはずだ。 「ガレス内部か、またはその近く、対面したビルのどこか。 この電波環境でなお遠隔操作が届く位置が考えられる」 「枢木……頼むから……」 「僕は君の自殺に付き合うつもりはないよ。 せめて勝つ道筋を見つけ出してから、口を開いてくれ」 どうあっても、枢木は頑として譲らない。 勝算の欠片も無い僕の言葉では届かない。 体から力が抜けて、するりと僕の手から天江の腕が抜けていく。 駄目なのか。 結局僕には何も出来ずに、天江をこのまま……死なせる事になるのか。 「僕はグラハムさんの戦いを見届けてから、あのビルに向かう」 ヘッドセットを耳に当てながら、枢木はそう言った。 おそらくあの受信機のむこうにいるグラハムさんと、何らかの連携を取っているんだろう。 グラハムさんの死を前提とするような。それをグラハムさんが覚悟していたとしても。 天江の死を前提とするような。それを……グラハムさんは知らないはずだ。 僕は、天江を託されている。僕だけが天江の危機を正確に知りえている。 だというのに、死なせてしまうのか。 僕は…… 「天江?」 その時ふと、気がつく。 先ほどまで心配そうに戦場を見ていて、今にも柵から飛び出しかねなかった天江が、一言も発していない。 床に座り込んだまま、じっと中空にあるエピオンを見て――いない。 天江は僕の言葉にすら気がつかないように、一心に手元を動かしていた。 「お前……なに……やってるんだ……?」 天江が見つめる先。 そこには麻雀牌と地図、方位磁石が並べられていた。 そして、そんな天江の傍らには、インデックスが座り込み、何事かをボソボソと告げていた。 「おい、何を考えて……」 僕はインデックスの肩に手をかけようとした。 こいつはいまだに主催の一味だった。 これ以上天江に何を吹き込もうとしているのか、 見当もつかないとはいえ、近づけたくはない。 けれど、天江はそんな僕を手で制するようにして、 「そいつを貸せ」 と、言った。 枢木にむかって。 顔も見ずに手を突き出し、トランシーバーを指しながら。 「…………」 枢木は少し迷ったみたいだけど、 「手短に、頼む」 そう言って、天江に機材を手渡した。 きっと、グラハムさんへと、最後の言葉を告げようとしていると、そう思ったのだろう。 僕も思った。だから止めようとした。まだその時じゃない。 僕は諦めたくなかった。 けれど天江は、すぐに受信機を耳に掛けようとせず。 「そう、か……」 顔を上げて、柵のむこうの戦場を見据えたまま、ポツリと呟いていた。 何事かに、気づいたような表情で、いちどだけ頷いて。 驚いたような表情が、氷解していく。 「やはり、そう……なのか、……は」 やがて全て悟ったように、それは笑みに変わっていき……。 「あららぎ」 そして、僕を見た。 僕をみて、にっこりと、口元を儚げに綻ばせた。 「ごめんな」 そう言った。 それだけで、僕は分ってしまった。 この子は……ああ……。 「衣は……きっと、もう助からない」 やめろ。 「あららぎは、助けようとしてくれてたんだな。 うん、嬉しかった。だけど、ごめんな。 衣は……」 やめろ、言うなよ。 「衣はもういい。もう、いいんだ」 首を振ったりするな。 そんな晴れやかな顔で、諦めたようなことをいうなよ。 泣きそうな表情で、嬉しそうに何を言ってんだよ。 「衣は分ったんだ。ここが衣の戦場なんだって。 いま、衣は戦うことが出来るんだって……」 「……どういう意味だ?」 その言葉に、枢木も、驚いた声を上げる。 「だからもう、十分だ」 「十分って……何が十分なんだよ。お前は……!」 お前は生きていてくれればいい。 それで僕やグラハムさんは救われる、なのにお前は……お前は何を言い出すんだ。 「衣はずっと守られてた。グラハムに何も返せなかった。 それでいいって、グラハムは言ってくれた。 だけどもう……衣は守られるだけなんて……いやだ」 天江は麻雀牌を並べていく。 ずらりと、インデックスの呟きを聞きながら、ものすごい速さで並べていく。 形作られる、それはさながら、このビル街のジオラマのように僕には見えた。 「気づいたんだ……『ここならば戦える』って。 だから……ごめん、な」 哀しそうに、天江は僕に、そう詫びる。 目に涙をいっぱいに溜めて、死の恐怖に震えながら、にも拘らず、嬉しそうに告げたのだ。 ごめんなさい、と。 それは明確な、拒絶のように聞こえた。 断絶のようにすら思えた。僕はそんな言葉が、聞きたかったわけじゃないのに。 「君はさっきから何を――」 「衣は、戦う」 枢木の言葉をすら遮って、彼女は強く言い切った。戦うと。 最後に一度だけ、涙を拭って、 拭った袖の下、その口元を歪ませて。 「戦えるんだ、だから今、衣は嬉しい」 残り僅かな命を、ここで燃やし尽くせれば本望だと。 面白いとすら彼女は言う。 その貌を見た瞬間、僕は、信じられないことに、この少女に寒気を感じていた。 いや、寒いだなんて表現じゃ生ぬるい、凍りついたと言っていい。 「戦える……やっと、やっと戦うことが出来るのだ……!」 下ろす袖の下、その瞳が、煉獄の炎の如くに燃えている。 なんだ? こいつは? 「目前の異能。その強靭。種に相違在り。ならば一切を児戯に堕とそう。 衣が相違を合わせよう。魑魅魍魎跋扈する地獄。是だ。 相手にとって不足は皆無。 この戦場、この『場』全てを衣の支配下に置く。 その役、種は違えど、戦いであることは同義だ。 ならばそこへ、衣は往こうか」 こいつは誰だ? 見たことの無い、『天江衣』がここにいる。 その圧倒的な気迫に、僕も、枢木さえも、何も言えなくなっている。 「嗚呼、衣はもう、何も恐くない」 もしかすると彼女は対局の際、こんな表情を浮かべているのかもしれない。 死への恐怖など欠片も感じさせない、壮絶な笑み。邪悪とすら表現できる悦楽の表情。 その貌を見れば断言できる、彼女は守られるために生まれてきたような、そんな脆弱な生き物では断じて無かった。 この『天江衣』は紛れも無く、強く、恐ろしい何かを宿した怪物だ。 人を喰らい得る、他者を徹底的に圧倒し蹂躙し完膚なきまでに叩き潰す。 そういう位階違いの強さ、戦慄すら、感じさせた。 「開幕だ」 一閃される、少女の細い腕(かいな)。 そこに燃える焔を、僕は確かに、幻視する。 「さあ謳え凡念。 譬え、一切合財、烏有に帰そうとも。この戦だけは譲らない――!」 そして僕は知る。 きっと言葉は届かない。 覚悟を決めた『天江衣』に、僕の説得は響かない。 誰が何を言おうと、彼女は決して退かないだろう。 「天江……お前は……」 この少女は――ここで死ぬ。 それを知る。 戦って、死ぬ。 真実、ここで果てるまで戦うことを、選んだのだから。 □ □ □ □ /もう何も怖くない、怖くはない(3) ビル街を爆速で躍動するガンダムエピオン。 その動きは既に、正道をかなぐり捨てていた。 笑いとも悲鳴ともつかぬ叫び声が人知れずコックピットに木霊する。 機体は人体の限界を超えた速度で急上昇。 手の平に乗せていた両儀式を、とあるビルの屋上に残した後。 目視した敵手の姿へと特攻を仕掛けていく。 「っ、おい……お前っ!」 地上から式が発する抗議の声になど頓着せず、エピオンただ目前の敵へと、敵へと駆けた。 そのような暇和は無い、これから防ぐべき蛮行は、彼女を乗せたままでは追いつけない。 中空にあるそこに、ショッピングセンターを狙い撃とうとしていた一方通行へと、急速に接近する。 投げ放たれていた建造物の一投げをシールドでもって防ぐだけに留まらない。 可能な限り、全ての攻撃動作を仕掛けていく。 ビームソードによる斬撃、通用しない、承知していた。 ヒートロッドによる一閃、通用しない、承知していた。 機体の左足部による蹴撃、通用しない、承知していた。 委細承知している。 それでも実行する。ひたすらに攻めた。 攻めて攻めて攻めて攻め続ける。 それこそが勝機、グラハムエーカーが信じている勝利への、唯一の道筋だった。 攻めるたびに、そのたびに攻撃はそらされ弾かれ跳ね返されて、エピオンの装甲に傷を増やし続ける。 装甲の終わりを早め続けた。 それでも、退くわけにはいかなかった。 攻撃の手を止めることは出来なかった。 中空にて死の舞いを踊るエピオン。 ビームソードの閃光が幾重にも散り、小規模の連鎖爆発が巻き起こる。 ヒートロッドが乱れ飛び、弾かれ、ビル街を火に染め上げる。 だが全ては片手一本で払われて、 弾かれたように退避したエピオンに、今度は一方通行が急降下で仕掛けていく。 咄嗟の迎撃、渾身の左の足部が跳び、一方通行に激突する。 当然、何の効果も上げていない。 どころかメキリ、と、足部が窪む。 蹴りの威力を全て反射され、自慢の装甲が歪む。 が、構わずに押し込んで、一方通行の座標を無理やり変えようと。 「オオオオオッ!!!」 ブーストを全開に吹かせ、そのまま邁進。 だかそれすら叶わない。 敵は微動だにしない。 メキメキと、よりいっそう装甲が窪んだだけだった。 「来いッ」 そこに駆けつける死の風。 一方通行が損傷を更に広げようとする刹那。 いつの間に拾い上げられていたのか、両儀式がエピオンの足部へと走りこむ。 刀の攻撃範囲から逃れた一方通行。だが更にエピオンが追撃する。 またしても、両儀式を近場の建造物の上に置いたままで。 「逃がさんッ!!」 「お前、滅茶苦茶だぞ……」 正に両儀式の言葉のまま、滅茶苦茶の特攻撃だ。 ただ傷だけを増やす追撃。意味のない。 死にに近づくだけの挙動。 その度に装甲は抉れ、無茶な挙動にパイロットは血を吐き、終わりが近づいていく。 それでも攻め続けなければならなかった。 攻撃の度に損傷する。 攻撃の度に血反吐を吐く。 それでも、こちらが攻撃するということは、敵は能力を使うという事だ。 こちらが攻撃し続けるということは、相手は能力を使い続けざるをえなくなる。 一方通行の能力に時間制限があるということは、スザクを通して知っている。 攻め続けた果てに、時間切れを狙う。 どうあっても両儀式との一対一に持ち込めない現状、その他に勝ち筋は見えない。 攻撃。 攻撃。 攻撃。 攻撃。 繰り返す。 繰り返して、払われて、落ちていく。 まだまだ足りない。膠着状態だった時間を除けば、まだたったの数度しか交戦していない。 実際の戦闘時間に換算すれば、未だ五分にも満たないのだ。 具体的にどれだけ力を使わせれば底をつくのかは知らないが、薬局の時を思い出せば、まだまだ足りない事は分る。 ならばコンスタントに攻め続けていきたい、しかしそれをするには機械対人ではあまりにサイズの差がありすぎた。 一度見失えば、次にどこから攻撃が来るのか予測できない。後手に回らされてしまう。 それでは駄目だ。それではもう、あと二度の交戦ともたずにグラハムは陥落してしまう。 それほどの余裕すら、残ってはいないのだ。 もう一つだけ、手が無いわけではない。 誘い込み。 薬局の時の様な、何かを餌にして両儀式の戦える場に一方通行を呼び込む。 しかしこれはグラハムの大切な者を危険に晒す行為に他ならず。 グラハムにはどうしても、選べない。 だからいま、攻める。 たとえ矛をかなぐり捨ててでも、 盾だけになろうとも、ひたすらに攻めた。 攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻め続けて せめてこの身(装甲)が朽ち果てる前に、あの少女を守らせてくれ。 後に戦い続ける者達へと、残せる戦果を上げさせろ。 その一心で、痺れの治まらない腕で、操縦桿を握った。 「…………ご、が……」 だがそれすらも、叶わないというのか。 グラハムは遂にこの時、光を失っていた。 身体の酷使は臓腑だけでなく、脳にすら及ぶ。 くらりと揺れた視界、色の失せる世界。 その一瞬後に、揺れる機体。 深刻な反撃を受けた。 堕ちる。 死ぬ。 そんな断片的なことは分る。 だが具体的なことが見えない。 分らない。視界に映らず、脳が認識しないままで落ちていく。 攻めきれなくなったときに切るカード、両儀式の居る位置すらも、これでは分からない。 このままでは終わる。 そう、グラハムは理解した。 口惜しい。未練だ。 守るべき者を守れずに、戦いの結果を見届ける事無く死んでいく。 そしてあと一つ、何かが足りなかった。 今なら分る。 グラハムの操る装甲。 両儀式の刃。 これだけでは、まだ足りなかった。 もう一つ、何かが必要だった。 それは敵の頭脳に対抗するべきもの、そう戦術眼、オペレーション。 戦場を俯瞰し、操り、事を優位に運ぶ手綱。 兵たるグラハムは、それを持たない。 戦士たるグラハムと式を、背後から支えてくれる、バックアップ。 参謀の言葉が、『指示』が、欲しかった。 そう、例えば、 『左方に跳べ、其処に両儀が在る』 今聞こえた。 このような声が欲しかったのだ。 「――――!!!!」 意識が、一瞬にして覚醒する。 目をカッと見開き、それで視界はもどらなくとも、腕を、トリガーを、もう一度強く握り締めた。 今確かに聞こえた『声』には、それほどの威力が在ったのだ。 頭にかかっていた靄など彼方に吹き飛ばし、機体を、その『声』の言うままに駆動させる。 地面に叩きつけられる寸前に、ガンダムエピオンは息を吹き返し、ブースト。 左方向へと軌道を変えて、立ち並ぶビルを薙ぎ倒しながら跳躍する。 遅れて地に降りた一方通行がすぐさま追撃を仕掛けるも、その場所は、 ある建造物から、躊躇なく飛び降りた両儀式の、落下してくる場所だった。 「ちっ」 「ほんとオレにはつれないよな。相手してくれるの、一回だけなのかよ」 退く、一方通行。 直前で視界を取り戻したグラハムにより、エピオンの腕が中空の両儀式を受け止める。 式が一息をつく暇すらなく。 『虚偽だ。敵は不退。左方より来たるぞ』 盾を構える。 言われた通りに、敵は来た。 エピオンの視界の外、ビルを突き破って。 小破した腰部を狙ってきた一方通行を、エピオンの左腕のシールドが受け止める。 「――――?」 何故、防がれたのか分らない。 と言った様子の一方通行。 再び動き出す前に、両儀式を肩に乗せ、エピオンは後ろに飛ぶ。 『その動作は否だ。回帰後、本懐の守衛こそを担え』 ビームソードを抜刀。 右に残っていたビル郡を纏めて切り裂き、一方通行へと落としていく。 視界を塞いだ隙に旋回。一方通行の背後へと回り込む。 案の定、落下してくるビルを弾き飛ばして、一方通行はすぐさま跳躍していた。 背後にあったショッピングセンターへと攻撃を仕掛けんとし、だがそこには既にエピオンが回り込んでいる。 『喰らうべきは視界。奴が受け入れる五感を穿つ』 再びシールドで弾く、一撃。 すぐさま式が肩部から飛び降り、接近を仕掛ける。 そこへと意識が集中した一方通行に対して、振り上げるビームソード。 振り下ろす、斬撃。 『故に、地を裂け――グラハムッ!!』 路上を、倒壊した建造物が積み上がったその場所を、金緑色のブレードが両断した。 巻き上がる砂塵、瓦礫、粉塵。 一方通行とエピオンの間に、濃茶色の壁を形成する。 次いで、上に向けられたシールドの上に、式が着地。 迎え撃つ姿勢を整えた。 敵の視野を遮った上での迎撃体勢。 これでは一方通行とて迂闊に踏み込めない。 決して不可能に思われた、建て直しを、成した。 「なにを……?」 「――ん?」 グラハムはこの時、一つの錯覚を得ていた。 声が聞こえていない両儀式も、同じく。 その、圧倒的な気配。絶対的な存在感。 無視できない、感情の焔。 確かに、背後に、感じていた。 背後のショッピングセンターより雪崩れし不可視の激流が、たったいまこの戦場を飲み込んだのを。 「君は何をやっているんだ、天江衣ッ!!」 それは足りなかった1ピース。 盾、矛、そしてもう一つ。第三の要因。 限界を迎える身体を、背中を支えてくれるような声。 戦場を俯瞰し、動かす。指示。 敵の位置を、味方の位置を、戦局を、指揮を伝える、オペレーター(通信士)。 充足させるその声は紛れも無く、天江衣の声だった。 「君は……君は……!」 『今は何も言うな、グラハム。衣はグラハムの傍に居る。最後まで傍に居ると、そう決めたよ』 「しかし君はこんな所にいるべき人間では無いんだ!」 『嫌だ、衣も戦う。だって』 「――くっ」 『ここが衣の、戦場だからな――!』 やり切れぬ思いに反して、身体は動く。 的確すぎる、的確すぎて不自然に思えるほどの指示によって。 否、指示自体は大雑把で場当たりなものだ。 瑣事加減や具体的な動きはグラハムに委ねられている。 参謀の言葉としてはあまりに欠陥がある。 しかしその通りに動けば、不思議と事が上手く行くようだった。 自然に、自然すぎて不自然に思えるほどに、戦場が都合よく転がっていく。 『敵は右方』 ビル街の中空で、続行される攻防。 『両儀の位置は後方に在り』 限界などとうに超えているはずの戦場で、エピオンはいまだに顕在している。 残り数度が限界に思われる交戦だったにも拘らず、激突は気がつけば十を超えている。 綱渡りの様な戦況、確かにそうだった筈だ。 にも拘らず天江衣の声が響いてより、一度の窮地も無い。 『敵の本旨は依然此方だ。まだ退くな!』 戦場を俯瞰できる声があるから、だけでは説明が付かない。 何か別の物がある。 別の要因を、感じている。 運命の変っていくような、『支配』されいてるような。 全てがその声の通りに、上手く行くような、改竄。 さながら、ツキの女神に愛されたギャンブラーにも似た。 どれ程絶望的な賭けに見えても、滅茶苦茶な確率であろうと、そもそも勝つ気すらなくとも、かくあるべしと勝利する。 勝利してしまう事が条理であるかのように、事が上手く働いてしまうような実感。 「なンだ?」 それはグラハムの敵にとって、即ち一方通行にとって、真逆の事態を意味しているだろう。 全てが、悪く働くような。 悪性の支配を、運が全て敵に回るような錯覚を。 何をしようと上手く行かない、裏目に出る。 引き換え敵は、意味の分らない強運でもって窮地から逃れ出る。 まるで足元から不可視の海水が湧き上がってくるようだった。 このビル街全域を、瞬く間に大量の塩水が満たしていく。 錯覚ではなく、それに足を取られている。 戦場が海となり、ここに巨大な『流れ』が発生する。 グラハムエーカーと一方通行との間に在る違いは、その流れが己に利するか害するか。 そして海水の発生源とは今この時、一方通行が見つめる――ガンダムエピオンの更に向こう―― ショッピングセンター第一立体駐車場にて戦場を見下ろす、一人の少女に他ならない。 「これは――?」 強運を、操る。否、この表現は適当ではない。 これは最早、運ではない。 運否天賦に介入した、能力。 天江衣の強大なる――『場の支配』そのものだった。 □ □ □ □ 時系列順で読む Back crosswise -black side- / ACT1 『疼(うずき)』(二) Next crosswise -white side- / ACT2 『もう何も怖くない、怖くはない』(2) 投下順で読む Back crosswise -black side- / ACT1 『疼(うずき)』(二) Next crosswise -white side- / ACT2 『もう何も怖くない、怖くはない』(2)
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最強証明―― ◆rfP3FMl5Rc 最強たれと彼らは願われた。 最強であることを彼らの小さき主達は喜んだ。 彼らは覚えている。 己が主がかけてくれた言葉を、残していった想いを。 故にこそ、彼らが為すべき事は決まっていた。 Stage:F-1エリア中央部さる駐車場 「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」 襲い来るはサーヴァントバーサーカー。 使い魔の一種に身をやつしてはいるが、その正体はギリシャの大英雄ヘラクレス。 理性を奪われ狂戦士へと堕とされた彼にはかって知恵と勇気を振り絞り神が課した数多の試練を突破した英雄の面影は残っていない。 代わりに2メートル半の鉛色の巨体に詰められしは全てを壊し尽くせと蠢く狂気。 根底にあるのはマスターたるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの元へと戻り護らんとする強い意思。 「……………………………………ッ!!!!」 迎え撃つは戦国最強本多忠勝。 群雄割拠の戦国時代において最強と謳われた実力者。 3メートルにも届く鋼鉄の鎧武者が背負いしは葵の紋と主君の願い。 争いのない平和な世の為、盟友と共に民を護り、打倒織田信長、誅せよ非道なりし帝愛グループ! それこそが謀略に倒れ、真に東照大権現として天へと帰った亡き主への最大の手向け。 決して道を交えることの無い二つの最強が武器を交え、吼え叫ぶ。 歩くだけで地を揺るがし、走るものなら地盤を砕く巨人同士の戦いは壮絶なものだった。 一合――大地が割れ 二合――住居が薙ぎ払われ 三合――大気がひしゃげ果て 四号――夜天が悲鳴を上げる バーサーカーが握りしは只人なら数人がかりでも持ち上げることすら叶わない大戦斧。 軍配を模したそれはかの甲斐の虎が得物なり。 武田信玄の超人的な力量を受け止めえる大戦斧は大英雄をして不足は無い武具だった。 大きさならば一方の本多忠勝が手にせし物も負けてはいない。 いや、そもそもそれは人の為に鍛えられた鋼ではなかった。 対ナイトメア戦闘用大型ランス。 機動兵器としては小柄とはいえ全項4メートルを超える機体用の槍を、あろうことか本多忠勝は片脇に抱え込んでいた。 「……………………………………ッ!!!!」 横薙ぎ、一閃。 本多忠勝がバーサーカーを跳ね除け、大きく距離を取る。 この戦いにおいては牽制程度にしかならない威力だったが、常人からすれば衝撃波と巻き起こる砕けたアスファルトの散弾だけでミンチになりかねない。 周囲に誰もいなかったのはバーサーカーにとっては不運であり、本多忠勝には幸運であった。 けれど、その幸運にいつまでも甘えてはいられない。 戦い始めたのが開けた場所だから良かったものを、このまま近くに見えている構造物へと突っ込めばどれだけの犠牲が出るか。 家内で隠れ震えている力無き民もいることだろう。 彼らを巻き込むことだけはあってならない。 本多忠勝は早期に決着をつけるべく、葵の門の刻まれた背部機関よりフレアを吹かしランスを突き出し疾走するっ! 「……………………………………ッ!!!!」 10丈もの距離を刹那に詰める速度での突撃。 3メートルにも至る巨体を砲丸としての一撃は刺突などという言葉では生温い。 ――貫き穿つ そうとしか形容できない必殺の刃は 「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」 標的へ届くことなく中空で前進を遮られる! バーサーカーが大斧で受け止めた――からではない。 烈風もかくやという勢いで突進してくる強敵に対して、バーサーカーもまた暴風と化し同時に踏み込み斧を振り下ろしていたのだ。 結果、寸分違わぬ速さで繰り出された槍と斧は両者の狭間で激突し火花を散らすこととなる。 ぎゃりぎゃりと、ぎしぎしと。 共に頑強に作られているはずの武器が軋みを上げる。 相手を押し切ろうと込められる主と獲物の怪力を一身に受けることとなってしまえば当然。 いかな業物といえど1分とかからずに灰燼と帰すだろう。 問題ない。 一分とかからずに相手を粉砕すればいいまでのこと!! 「■■■■■■■■――!」 大英雄の豪腕が唸る。 鍔迫り合いに競り勝ったからではない。 突如として軍配斧を押し止めていた抵抗が消失したからだ。 ホバーじみた移動を活かして戦国最強はくるくると旋回しつつ瞬時にバーサーカーの背後へと周り込んだのだ。 その迅きこと、まさに雷が如し! 速さを味方につけたまま続けて繰り出された槍撃の鋭きこと雷鳴の如し! 大英雄が体勢を立て直し左回りで振り向かんとするも光の速さを前にしては遅い、遅すぎる! ならばこそ理性を極限まで削がれたことで研ぎ澄まされた本能はバーサーカーに軍配斧を斬るのではないもう一つの用途で使用させた。 即ち、仰ぐ。 速度が足りない分を大扇を振るうことで起きる烈風のリーチで埋めようとしたのである。 冗談みたいな作戦である。 しかし、忘れる事なかれ。 英雄には荒唐無稽な伝説がつき物だということを! 「……!?」 鋼の如し筋肉に覆われた人一人ほどの大きさを誇る豪腕と、同じく扇部分だけでも人一人覆い隠せるだけの面積を持つ軍配。 馬鹿げた二つの要素が合わさって小型の嵐が発生する。 規格外の勢いの向かい風を受け、本多忠勝の勢いは完全に削がれてしまう。 その隙を大英雄は見逃さない。 軍配を振り抜いて尚、バーサーカーの回転は止まらなかった。 生じた遠心力を右拳を打ち出す動作に直結させ、渾身の鉄拳を本多忠勝へと叩き込む! 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!!!」 苦悶の叫びを代弁するかのように、忠勝の全身より蒸気が上がる。 分厚き鎧も半神の鉄槌の前では用を成さない。 みるみるひしゃげ、捻じ切れ、砕け散っていく。 爛々と輝いていた赤き瞳も体内の危険を知らせるかのように激しく点滅を繰り返す。 この殺人遊戯の場へと連れてこられるより前、長篠の地にて度重なる連戦の果てに一度は地に伏したあの時のように。 あの時のように…… ――忠勝、戦国最強の名に恥じぬ戦いをわしにもう一度見せてくれ。忠勝! 本多忠勝は深い傷を負い、一番大切な時に傍にいることが叶わず、主君を助けることができなかった。 再び動けるようになった時、小さい身体に本多忠勝など到底及びもしない大きな志を抱いていた主は手の届かぬところへと行っていた。 涙は、出なかった。 流す必要も無かった。 徳川家康は彼が夢見たように日本全土の平和の守り神となったのだ。 ならば天上から日ノ本を照らす主に恥じないよう、最後のその時まで地上より民を守り続けよう。 一度と言わず、二度でも、三度でも、四度でも。 “東照権現”徳川家康に相応しき“戦国最強”本多忠勝として。 「……………………………………ッ!!!!」 ギアを一気にトップへ移行。 三段階の加速を経て本多忠勝の巨体が一瞬にして月夜の空へと舞い上がる。 突き刺したままの右腕に引きずられる形で空へと放り出されたバーサーカーは唐突な足場の消失により力の伝達に失敗。 続く忠勝の変則軌道に耐えられず振り落とされる。 ヘラクレスは怪鳥を撃ち落したことはあっても、空を飛び戦ったことは無かった。 空中戦では圧倒的に本多忠勝に分がある。 地上での激闘が嘘のように何の抵抗に会うことも無く、本多忠勝は落下するバーサーカーの真上を取る。 高高度からの落下の衝撃に加え重力加速を味方につけた超重量級の忠勝による突撃。 空中で自由に動けぬ身では、回避することも防御しきることは不可能。 必殺必中を期した本多忠勝が一筋の稲妻となりてバーサーカーへと突き刺さる。 ――ドッゴオオオオォォォォォオオオオオオオオン! 響く激突音、掻き消される狂戦士の断末魔。 舞い上がった砂塵が晴れ轟音が収まった大地にて生きているのは腕を組み二の足で立つ本多忠勝のみであった。 あくまでもこの時点では 心せよ、戦国最強よ。 今、汝の眼前に聳えし者は、守るべきものの為ならば一度と言わず、十二度も立ち上がらんとする者也!! ―――バーサーカーは、強いね その言葉を、覚えている。 狂気に侵されたバーサーカーには壊す、殺す以外に大切な小さき少女を護るすべは無い。 構わないと、意思無き英雄はそれでも魂で思った。 かって愛する家族を自らの手で殺してしまったこの狂気で、今度はあの一人ぼっちの娘を護れるというのなら。 彼女が望んだ最強のサーヴァントとして喜んで狂おう。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」 物言わぬ骸となった強敵より武器を引き抜き立ち去ろうとしていた忠勝の前でバーサーカーは再び力を取り戻していた。 あれだけ派手に腹部に空いていた大穴は既に無い。 本多忠勝の目の前で時が蒔き戻るかのように塞がったのだ。 だが真に驚愕すべき事態はその後に訪れた。 「……!?!?」 ありえざるべき事態に動じることなく、再殺せんと放った突きが、なんと武器を持たぬ右手一本で受け止められていたからだ。 兜に隠れた無機質な眼が見開いていた。 これまで一撃入るごとに僅かなりとあった確かな手応え。 それが全く感じられなかった。 現にバーサーカーの開かれた掌は傷一つ負っていない。 どころか狂戦士はランスの穂先をきつく掴み忠勝のバランスを崩した上で空いた左の斧で切り伏せんとしてきたのである。 槍の展開ギミックを再度使用し狂戦士の手を払い全速で空中に回避したが、避け切ることはできなかった。 本多忠勝の鎧の胸部装甲に右斜め一文字の傷が刻まていた。 一連の復活劇を可能にした不可思議な現象こそバーサーカーらサーヴァントの半身とさえ言われる宝具の効力。 生前彼らが持っていた武器や固有の能力・魔術・特徴や、あるいは彼らを英霊たらしめる伝説や象徴が具現化したモノ。 バーサーカーのそれは彼が為した前人未到の功績に由来する。 “十二の試練(ゴッド・ハンド)”。 十二の試練を乗り越えたことによって与えられた神の祝福。その冒険の数だけ死を無効化、蘇生する! 加えて一度殺された攻撃や並大抵の英雄の奥義を無効化するバリアとしての効果も兼ね備えたまさに鉄壁の鎧である。 もっとも赤き弓兵に五度殺された後にこの地に呼ばれた上に、死因たる攻撃以外は無力化できない制限が課せられているのであるが。 そして当然そんな制限が必要な怪物と互角に戦えるトンデモにも課せられていないわけもなく。 「……………?」 ゴッド・ハンドを噂に聞く南蛮の妖術かと警戒し、遥か上空に止まったままだった本多忠勝がふと首を傾げる。 とっとと降りて来いとばかりに吼え続けるバーサーカーの声を煩わしく感じたからではない。 気のせいか高度が徐々に下がっているように思えたからだ。 否。 気のせいではない。 明らかに本多忠勝は落ちている! しかもバーサーカーがいるのとは海を挟んで逆方向の地へと向かって。 実は安土城に向かう途中で連れてこられた本多忠勝は、修理に辺り盾や砲台などの追加装備の没収だけでなく飛行機能は不備を残されていた。 高高度からのヒットアンドアウェイによるワンサイドゲームになればつまらないと判断された為だ。 よって地上での多段加速や普段の低空疾走くらいは満足にこなせる絶妙な按配で仕上げられている。 「……………」 「■■■■――」 二人の距離が徐々に遠ざかっていく。 邪魔だと海を睨み付けるのを止めたバーサーカーは本多忠勝を見上げ、不時着に備えつつ本多忠勝はバーサーカーを見下ろしていた。 天と地に分かれた二人の交わす視線の意味は再戦の約束か、未だかって見えたことの無かった好敵手への賞賛か、はたまた邪魔するものへの敵意か。 口で語らず、行動で表す二人の真意は他の誰にも分からない。 主の生死も、殺し合いに乗ったか抗ったかも、生まれた国も世界も何もかも違うというのにどこか似ている二人の最強が再度あいまみえるのか。 それもまだ知る者は居ない。 バーサーカーVS本多忠勝 結果:ドロー。 最強証明――ならず 【F-1/エリア南部/1日目/深夜】 【バーサーカー@Fate/stay night】 [状態]:健康、狂化 [服装]:上半身裸(デフォルト) [装備]:武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA [道具]:デイパック、基本支給品 [思考] 基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。 1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、イリヤの元へと戻る。 2:本多忠勝とはいずれ決着をつけたい? [備考] ※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3 ・合計12回まで死亡してもその場で蘇生。状態を健康にまで回復。耐久力を大きく上回るダメージを受けた場合は複数の命のストックを消費。 現在残り蘇生回数6回。 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。 現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works ・首輪の爆発での死亡時には蘇生できない。 ※参戦時期は 14話 理想の果て直後です 【武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA】 人一人分のサイズはあろうかというほど大きな軍配型の斧。 軍配の淵に刃が付いている。超人的な武田信玄の扱いにも耐えられることからかなり頑丈。 【F-1/エリア南部海上/1日目/深夜】 【本多忠勝@戦国BASARA】 [状態]:疲労(中)、胸部装甲破損(12話時イメージな穴が空いています)、墜落中 [服装]:全身武者鎧 [装備]:対ナイトメア戦闘用大型ランス(コーネリア専用グロースター用)@コードギアス 反逆のルルーシュR2 [道具]:デイパック、基本支給品 [思考] 基本:徳川家康(参加者にはいない)の遺志を継ぎ戦国最強の名に恥じぬ戦いをする。 1:織田信長、明智光秀、主催者グループを打倒する。 2:まずは手ごろなところに着地する。 3:バーサーカーとはいずれ決着をつけたい? [備考] ※参戦時期は第12話で安土城へと向かっている途中。 尚、後述の飛行機能以外は主催者の力で修復された模様。 ※バックパック内の装備は没収されているため、原作ゲームにおける攻撃形態、防御形態、援護形態使用不可。 他、ゲーム版での固有技、バサラ技が使えるかはお任せ。 ※主催者側から飛行機能に制限が課せられています。短時間低空飛行には問題ありません。 【対ナイトメア戦闘用大型ランス(コーネリア専用グロースター用)@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 所謂巨大ロボ用の突撃槍。周りの刃が展開するギミックがあるものの、特にビームを放ったりもしない普通の西洋槍。 ※F-1エリア南方での戦いは相当派手に立ち回りました。ただ、構造物への被害は大きいですが、 基本が斬りあいだったため最後の高度からの落下突撃以外は音的には派手ではなかったかもしれません。 時系列順で読む Back モンキー&ドラゴン Next Vince McMahon 投下順で読む Back モンキー&ドラゴン Next Vince McMahon 本多忠勝 038 機動戦士ホンダム00~ツインドライヴ~ バーサーカー 067 狂戦士の夜
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329 :名無しさんなんだじぇ:2011/07/02(土) 22 45 31 ID 4322JIo6 【伊達家 第一ターン 主従コンビと片目コンビとフォロー役コンビ】 伊達政宗はモニターを前にまんじりともせず映る画像を眺めていた。 隣に控える片倉小十郎は、頬をかきながら政宗に問う。 「これがげぇむというものですか。で、これをやろうという話で?」 「Yes! 皆も参加するというんでな。まっ、勝負事だ。やるからには勝つぜ小十郎」 というわけで、二人はゲームをやる事にしたのだが、戦国出身の二人にゲームなぞそれこそ無理げーである。 そこで、アドバイザーとして二人共に縁の深い人間にご出馬を願う。 「私もこういったものはあまりやらないので、お力になれるかどうかはわかりませんが頑張りますね」 風越の聖女、福路美穂子である。 ちゃんちゃららーんとゲームが開始されると、すぐに美穂子が声を上げる。 「あら、これは戦国時代のゲームなのですね。これならきっと政宗さんも選べますよ」 そう、二人がやろうとしていたゲーム、それは『信長の野望』であった。 美穂子が選択陣営を伊達に合わせると、政宗のグラフィックが映る。 「ほぉ、これが俺か。なかなかに渋いんじゃねえのか。まあ実物にゃ及ばねえがな」 小十郎はしみじみと語る。 「後の世でもあの時代を語り継いでいると聞いていたが、こんなすげぇ仕掛けまで作る程とは」 口元に手をやり、美穂子はくすりと笑う。 「ふふっ、では始めますね。えっと……あ、居ました。ほら、これが小十郎さんですよ」 伊達家の将として、当然小十郎の名もある。 「少々照れくせぇな」 「お二人とも他の武将と比べても、かなり良い能力値ですね。……随分と年代が進んでいます。もしかしたら、オリジナルのシナリオなのかもしれません」 それなりに学業を納めているらしい美穂子は、信長と政宗が同じ戦場に居る不思議に気付けた模様。 もっともれっつぱーりーな政宗的には細かい事はのーさんきゅーらしいので、さらっと流されたが。 説明書やら操作やらを確認した美穂子は、居住まいを正す。 「概ね理解出来ましたが……えっと、殿。方針はいかがなさいますか?」 政宗も一応これが全国を制覇するゲームであるという事は理解出来た模様。 「おう! まずは信長に挨拶でもしてくるか!」 「……えっと、領地接してないので無理です。まずは周辺国を平定しない事には……」 小十郎が美穂子の隣でうんうんと頷いている。 「政宗様、こいつは単騎で敵軍を粉砕出来るような戦じゃないみたいですし、ここは一つ、国を固めて軍を揃えるとしましょう」 見るからに不満そうな様子で腕を組む政宗。 「まあゲームだしな、実際の俺なら即座に戦なんだが……いいさ、Partyは後のお楽しみとするさ」 自らに言い聞かせるようにそう呟く政宗であったが、小十郎も美穂子もそちらを見てもいなかった。 「おっと、そこの金山は確保しなきゃならないんじゃないのか?」 「ええ、そのつもりです。……技術は伊達家の固有技術の鉄砲を狙うのが有利かもしれません。わざわざ固有というぐらいですし」 「鉄砲か、確かにありゃ強ぇ。だが、一度戦争がどんなものか見てみないと判別しずらいな」 「ですね……あっと、隣国で戦ですね。これ、ちょっと手出してみますか?」 「いいねぇ、っと、片方他国と同盟組んでるんじゃないか? 手出す相手間違えると面倒な事になりそうだな」 「はい、これ、実際やってみないと何ですが、もしかしたら米の消費がかなり厳しいかもしれませんね」 「ああ、俺も気になってた。なるほどなるほど、内政の技術もかなり抑えておかなきゃだな……そこの施設作るのは三人で出すのは止めた方がいい。僅かにだが、一人づつの方が速いっぽいぜ」 「あ、やっぱりそうだったんですね。多分ですけど……こういう細かい部分で他プレイヤーと差がつくんでしょうね」 「他の連中もほとんど初見なんだろ? なら逆に誰が一番速くコツを掴むか、有利なやり方を見つけられるかが肝だな」 二人は夢中になって内政を行なっているわけで。他人の面倒を見るのを好む二人は、国が、人が育っていく内政に向いているのだろう。 ふと思い出したように小十郎が振り返る。 「政宗様、とりあえず様子見の戦するんですが、よろしいですか?」 政宗は何処か物寂しげな風情をかもし出しつつ、ぽつりと呟く。 「……おーけいだ。よきにはからえ」 うっきうきで戦闘準備に入る二人。 まずはこの技能を確認するだの、兵糧消費の勢いだの、兵種云々だのの話題で盛り上がり続け、ちょっと拗ねてみた政宗を構う事はなかった。 330 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 47 16 ID 4322JIo6 遂に東北の雄、最上を追い詰める事に成功した伊達家。 その頃には政宗もいい加減ゲームシステムを理解したのか、美穂子小十郎の話についていけるようになっていた。 「よしよし、きっちり数揃えて戦すりゃ楽勝じゃねえか。さーて、こいつも戦国の習いだ、きっちりトドメ刺しつつ君主一族は首をはねて……」 政宗を無視して小十郎美穂子でさっさと降伏勧告してたりする。 「おいっ!」 「何を言ってるんですか政宗様。こいつは武将の数と質がそのまま国力に繋がるんですぜ。殺すなんてそんなもったいない事出来ますか」 「後は土地ですね。維持費も馬鹿になりませんし、登用でもしないと内政の手が足りません。戦する暇なくなっちゃいますよ」 それに、と二人は口を揃える。 『計略S知略96殺すなんてとんでもない!』 最上義光を如何に活用するか、戦争前から二人はずーっとそればかり考えていたらしい。ぶっちゃけ小十郎がもう一人増えるようなものであるので、そりゃもう夢広がりんぐである。 何かもう、こいつらほっといたら光秀すら軽く登用しそうで怖いとか思った政宗であった。 ともかく、何やかやと東北方面の半ばを抑える事に成功した伊達家は、同じく勢力を伸ばしている上杉家と国境を接する事となった。 理想を言うならば東北を完全に制覇し後顧の憂いをなくしてからといきたかったのだが、国境付近に軍備を揃えてきている上杉を無視する事も出来ず、両国の間で緊張が高まる。 が、敵情を調べた結果、美穂子は片方のみ開いた瞳を伏せ、小十郎は天を仰ぐ。 「……これは、将の質がとんでもないですね……」 「うちも随分と軍容が整ったとは思うが、これは幾らなんでも……」 政宗はしかしふんと鼻で笑う。 「何言ってんだお前等。きっちり数揃えて行けばどうとでもなるって話だろ。あの上杉謙信が単騎で突っ込んで来るよりゃよっぽどマシじゃねえか」 それに、と嬉々として画面を指差す。 「見ろこの鉄砲技術を! こんだけあって指揮するのが俺なんだ! 負けようがねえじゃねえか!」 揃えられたのは美穂子と小十郎の内政のおかげであるのだが。 既に二人はこのゲームにおける内政のコツともいうべき部分を抑えており、CPU操作の上杉を大きく上回っていた。 出来れば不安要素を全て消して挑みたい美穂子であったが、ここで拡張の足止めを食ってしまうと他PLとの決戦で大きく後れを取る原因にもなりかねない。 「そうですね。正直統率が100を越えてるとはいえ、数がいれば上位の武将とも張り合えるはずですし……ただ、政宗さんでも統率差20以上とか、この方何なんでしょう……」 「しかし……政宗様はまだ面影が残ってるが、この謙信はもう見る影もねえな。女面は何処に落としたって髭だぜ」 「上杉さんってそうだったのですか?」 「ん? ああ、武将にしちゃエライ細身でな。あれで甲斐の武田と張り合ってるってんだから大したもんだよ」 「あ、そういえば先程ログに武田家が滅亡したとかありましたね」 「どうせ甲斐武田は真田幸村がやってるんだろ。確かに、奴には向かないだろうなこういうのは」 ぎょっとした顔なのは政宗だ。 「何い!? アイツもう終わっちまったのかよ。へっ、口ほどにもねえ。そういう事なら先々も恐れる事はねえ、上杉潰して関東まで一息に飲み込むぜ!」 兵数にして約二倍近い数を揃えた伊達軍は、政宗を先頭に上杉領へと兵を進める。 そして、政宗率いる部隊が上杉謙信の部隊に触れた瞬間、それは起こった。 「嘘!?」 「何!?」 「何だよ、お前等いきなりどうした?」 「政宗様! 兵がものすげぇ勢いで削られてますぜ!」 「あん? ……ってこりゃ何だ一体!? おいちょっと待て! お前等何か見落としてたんじゃねえのか!?」 「こ、このペースはまずいです! 一旦引きます!」 「ば、馬鹿野朗! まだロクにぶつかってもいねえじゃねえか!」 「数字計算して下さい政宗様! これじゃ向こう削りきる前にこっちが潰されちまいます! って言ってる側からまた戦法かよ!?」 更に美穂子が恐ろしい戦況予測を告げる。 「……多分、全軍で行っても、向こうがこちら削る……というか融かす方が速い、かも、です」 331 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 47 50 ID 4322JIo6 小十郎はぼそりと呟く。 「これじゃ単騎で突っ込んでくれた方が、俺が抑えりゃそれで済む分よっぽど楽だ。軍神恐るべしですなぁ」 実は上杉謙信、このゲームで最強の統率を誇り、そこに軍神やら車懸りやら騎馬Sやら更に官位やら家宝やらで統率強化してくれるので、最早手がつけられないチートユニットなのである。 「っておい! 殿俺かよ! いやむしろ望む所だけどよ! そういうの普通一言あってしかるべきじゃねえのか!?」 「いや、だって政宗さん名馬欲しいって言ってたじゃないですか。だったら絶対捕まらないんですしこういう時の為の馬ですよ。備えあれば憂い無しですね」 「まあ確かに馬寄越せって言ったのは俺だが……うぉい! 小十郎真っ先に逃げてんじゃねえてめえ!」 「このげぇむじゃ武勇低いですからね。ここは一つ政宗様にふんばってもらうって事で。ああ、これなら何とか撤退出来そうです。流石政宗様、見事な殿。まるで島津の捨て奸のようですぜ」 「大将捨て駒とか無茶が過ぎんだろお前等!」 とにもかくにも最小限の被害で撤退を終えた伊達軍。 政宗は、それまでユニット政宗が圧倒的に強かっただけに、どうにも釈然としない顔である。 「何かこれヒドクねえか? いやゲームに文句言うのも何だけどよ、これじゃまるっきり俺の方が下みたいじゃねえか」 「政宗さんも小十郎さんも随分とトンデモな能力値なんですし、こういうものだと割り切った方がよろしいかと」 小十郎は武将画面を開き、各武将の能力値をざっと眺める。 「つまり、後世の評価がこの能力値って事なんでしょうね。なあ福路殿、もしかしたら俺達がこれからどうなるのかもあんた知ってるんじゃないのかい?」 ちら、と小十郎を見上げる美穂子。 「……知りたい、ですか?」 「まあな。生きてるんなら是が非でも口にさせなかったんだが、こうなっちまったらしょうがねえ。気にならないって言えば嘘になるしよ」 美穂子は自分の知る限りで、小十郎、そして政宗の歴史上での活躍を伝えた。 これを聞き、派手にキレたのは政宗だ。 「なあああああああああんで俺が秀吉だかっつーモンキー野朗に頭下げなきゃなんねええんだああああああ! つか弟とか母とか父とか、ウチの家族どんだけドメスティックしてやがんだ!?」 「まあ、実際そんなもんでしたが。流石に政宗様相手に、そんな福路殿が言うような陰惨な真似は通用しねえですぜ」 「はい、ですから少し戸惑っています。何せ数百年後の話ですから、齟齬もあるのでしょうね」 違う世界の戦国だとは思っていないらしい美穂子は、そんなフォローを入れてみたりする。 それでも政宗は納得しがたいらしい。 「腹の立つ話だぜ! 大体だな、このゲームも『信長の野望』とかどんだけあの野朗持ち上げてくれてんだよ!」 ちょっと困った顔の美穂子。 「はあ、ですが、織田信長さんや豊臣秀吉さん、そして最後の勝者徳川家康さんなんかは学校で習いますしね」 「あのちびっ子がねぇ。それに信長の最後は俺でも真田幸村でもなく、明智の野朗の裏切りとは……何とも締まらねえ話だ。その明智を殺るのも秀吉だかって奴なんだろ。俺はその間昼寝でもしてたってのかよ」 更に首を大きく傾げる美穂子。 「それなんですよ。そもそも政宗さん、織田信長さんと同時期に生まれてなかったはずなんですよねぇ。そういった私の知る歴史を元にゲーム作ってありますから、色々と齟齬があるのかもしれません」 しかし、と思い出し笑いを漏らす小十郎。 「白装束に十字架背負って頭下げに行くってな、如何にも政宗様がやりそうな気はしますな」 「くそっ、何にせよ天下は取り損ねたって話か。ええい、なら尚の事このゲーム負けらんねえぞ!」 政宗の号令により、再度戦力を拡充する伊達家。 東北を肥沃な大地に変えてしまう程のすーぱー内政のおかげか、はたまた政宗殿により被害を抑えられた故か、あっという間に先の戦力を大きく上回る兵力が集まる。 危険な上杉謙信は釣りだしつつ封殺し、危なげなく上杉家を降伏にまで追いやる。 政宗はもう慣れたのか、戦そのものより戦後処理に目を輝かせる小十郎と美穂子にその辺を任せつつ、とりあえず戦終わったーとお茶に手を伸ばしかける。 ふと隣を見ると、何故か画面を見たまま小十郎と美穂子の二人が硬直していた。 『政宗様、一大事にございます! 真田家が我が方に向かって進軍を開始しました!』 332 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 49 28 ID 4322JIo6 【真田家 第一ターン 真田の場合】 「なあセイバー。これ、俺が手を貸すのって卑怯な気がしないでもないんだが……」 衛宮士郎はそんな事を言ってみたが、セイバーはまるで聞く耳を持たない。 「それを言うのであれば、ユキムラにゲームをやらせようというのがそもそもおかしいのです。こういうのはやはり慣れた者の手ほどきがあってしかるべきでしょう」 「言う程俺もそういうのやってる訳じゃないんだけどな……」 部屋に入ると、大きな画面を前にした真田幸村がコントローラーを握ってああでもないこうでもないと色々苦戦している最中であった。 「おおっ! 援軍を連れてきていただけたかせいばあ殿! かたじけない、それがしこのように面妖なモノ扱った事もない故」 「よろしく真田さん。とりあえず、やり方ぐらいはわかる?」 「本は読み申したが、正直何からどう手をつけたものかさっぱりでござる」 わかった、と士郎は一通りの操作を確認する。 「ん、大体わかった。けど、俺もそれほどゲームは得意じゃないからあまり期待しないでくれよ」 「機械は得意なんじゃないんですの?」 「コンピューターはまた別の話さ……って、え?」 何故かすぐ後ろから白井黒子が顔を覗かせていた。 「ならわたくしも少しはお役に立てるかもしれませんわね」 「い、何時の間に……」 驚く士郎を他所にさっさかと画面を調べる黒子。 「えっと、勢力は武田家、じゃなくて真田家っての作れますわね」 一応それなりにだがゲームシステムを理解していた幸村はいきなり大慌てである。 「い、いやしかし、某は御館様と共に天下を……」 「ゲームに言っても仕方ありませんわ。へぇ、真田十勇士揃い踏みとは、これ結構な有力勢力なんじゃありませんこと? 後はきっと近くにあるだろう武田軍の武将引っこ抜ければ序盤からかなり飛ばせそうですわね」 「た、武田に反するような真似を某がするわけにはまいりませぬ!」 そこで、セイバーが幸村の肩をぽんと叩く。 「ユキムラ。私はゲームの事はわかりませんが、君主の心得を教える事は出来ます。領民の為、自らを慕い信じる将の為、敢えて鬼にもなるのが王たる者の役目なのですよ」 士郎も画面を見ながら少し乗り気になったのか、ふむふむと頷く。 「真田の一族、これ、何か物凄いんじゃないのか? うん、これなら勝てそうな気してきたよ」 ふふんと無い胸をそらす黒子。 「当たり前ですわ。やるからには完勝を目指しますわよ」 まだぎゃーぎゃー喚いている幸村に、黒子が仕方がないと妥協案を提示する。 「いずれ真田と武田は同盟関係にあるでしょうし、共に天下をというのであれば、それほど問題ではないでしょう。同盟のままでも勝利条件を満たせるようですし」 「そ、そうでござったか。ならばこの幸村! 御館様と共に見事天へと昇ってみせましょうぞ!」 ぼそぼそっと黒子はセイバーに耳打ち。 「……武田落とす時は、幸村さん取り押さえておいていただけますか? 戦国武将の大暴れ抑えられるのセイバーさんぐらいですし」 「そこまでせねばならぬものなのですか? ユキムラの言うように共に天下をというのは無理なのでしょうか」 「武将の数と質は重要なファクターですわ。なのに人材の宝庫武田軍を放置しつつ勝利なんてありえません」 333 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 50 41 ID 4322JIo6 そんなこんなで始まったゲーム。 案の定武田のすぐ側の土地で開始となった真田軍は、これ幸いと、同盟国武田を背後の壁とし、近隣諸国を瞬く間に平らげていく。 北條やら徳川やら織田やら有力大名のプレッシャーは全て武田軍が抑えてくれているので、すこぶる快調に話は進む。 そして、運命の時を迎える。 「北條、今川が武田へと攻め込んだだと!? おのれ待っていてくだされ御館様! この幸村が疾く馳せ参じますぞ!」 しかし士郎は幸村の反応に眉根を寄せる。 「でも、こっちの主力は戦闘中、ここから戻るのもこのまま攻め落とすのも大して時間はかわらないぜ。まいったな最悪のタイミングだよ」 ならばとセイバーが口を開く。 「次の一手を考えるのであれば、この城を一刻も早く落とし、救援に駆けつけるべきでしょう。今川、北條を相手にしつつ後ろから逆襲でもされては事です」 確かに、全てはセイバーの言う通りだ。 歯噛みしつつ祈るようにログを見守る幸村。 そして黒子は、誰にも見られぬ角度で、会心の笑みを漏らしていた。 『計算どおりですわ! 北條も今川も、織田と手を結んでいる今、狙うは武田と我々真田。ふふふっ、わざわざ全力でこちらに出向いた甲斐があったというものですわ。この位置からならば戻るまでに一戦、いや二戦は行なわれるはず。後は弱体化した武田を……くっくっくっくっく』 全ては黒子の思惑通りだったらしい。同盟の組み合わせを細かに調整し続けた成果である。 更に現在武田は上杉との戦いにより消耗激しく、領土の半ばまでを奪い取られてしまうだろう事も織り込み済み。 しかし、黒子の計算を上回る速度で話は進む。 武田の各城が落とされるログが次々流れ、敵城を落とし軍を武田へと差し向けた真田軍が国境を越えようとした時、最後のログが流れた。 『武田家が滅亡しました』 その後のこの部屋の混沌っぷりは筆舌に尽くしがたい。 喚き暴れる幸村がその主な、というか全ての要因であったが。 号泣する幸村に、セイバーがその矛先となるべく剣を抜き、士郎が必死になって慰める。 そして黒子である。 『危機? いえ、これは真田軍唯一の急所が失われたという事。この機を活かせずして勝利の道はありませんわ!』 さんざっぱら暴れ回り、無駄に広い室内でエクスカリバーまでぶっぱなすような大騒ぎ(無論壁はぶちぬかれ、偶々偶然運悪く通りかかった池田の眼前を光の軌跡が貫いていった。へたり込んだ池田がその後トイレに駆け込んだとか、何故か下ジャージに着替えたらしいとかいう話があるとかないとか)の最中、黒子の凜とした声が響く。 「合戦の準備、全て整いましたわ。いかがなさいますか?」 ぴたりと、幸村の動きが止まる。 「……かっせん、でござると?」 「無論、武田領を接収し分割した北條今川連合軍にですわ」 技術はこちらがリードしており、兵力差はこれで埋め得ると黒子は判断したのだ。 ゲームとは思えぬ程激しく感情移入している幸村の号令一下、真田軍はその総力を挙げ戦に挑む。 きらーんと光る黒子の瞳。獅子心中の虫を抱える幸村がちょっと哀れになってくるが、それに気付ける者もこの場には居ないのであった。 334 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 51 07 ID 4322JIo6 『武田信玄を登用しますか?』 流浪の身となっていた信玄を発見。 「おやかたさまああああああああああ! おいたわしや……すぐにこの幸村が参りますぞ!」 北條今川領への逆侵攻こそ成らなかったものの、旧武田の所領をほぼ全て取り返した真田軍。 戦闘と同時に引き抜き工作も行なっていた為、かなりの数の武田武将を確保する事に成功した真田軍は、ようやくちょっと大きくなった小国を脱し、上杉やらと張り合える強国へと成長した。 家督を信玄に譲るだの駄々をこねる幸村に、システム上不可能ですとさらっと切り返す黒子。 そんな中、士郎が皆に注意を促す。 「これ伊達がかなり大きくなってないか? ……っていうかこのゲームって誰がどの大名担当してるかわかる?」 これには幸村が即答する。 「何でも公平を期すため、それは秘密のままげーむをするという事でござった」 とはいえここまでゲームが進めば予想ぐらいは立つ。 西方に勢力を伸ばす織田家、東北で覇を唱える伊達家、この二つはほぼ間違いなくPLアリであろう。 というか、多分やってるプレイヤーも何となくだが想像はつく。 戦国武将はもう一人いるが、彼がゲームをやっている姿が想像出来ないし、そもそも開始時よりゲーム間違ってんだろお前な勢いで何処とも同盟も結ばず鎖国している徳川絡みなので、これは非参戦の可能性が高い。 いずれ、戦国武将のみでのゲームは厳しいので、アドバイザーを見つけているだろうが。 そこでセイバーが更に疑問を投げかける。 「……彼に、手を貸す者は居るのでしょうか?」 彼とは言うまでもない。徳川ロボの次ぐらいにゲームやってる姿が想像しずらい、明智の光秀君である。 ロワ内での大暴れを考えるに、誰かに協力を求めるといった行為は不可能に近いであろう。 と、妙なログが流れてきた。 『織田家が滅亡しました』 全員一斉に目が点になる。 そして新たに明智家が立つとの話を聞き、誰もが心より納得したとか。 335 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 51 39 ID 4322JIo6 【明智家 第一ターン ああ、下克上】 「…………これは、予想外、でしたね」 明智光秀は画面を呆然としたまま見つめている。 史実イベントである本能寺の変の直前、光秀が信長を安土城に置いたのは僅かな感傷がそうさせたのだが、まさかこんな結果が出てくるとは。 隣で攻略情報をプリントアウトしたものを見ていた上条当麻も、驚きを隠せずにいた。 「すっげぇ……知ってたのかこれ?」 「いえ、ただ、こうであったならもう少し楽しめたのにと思っただけだったのですが……いやはや、わからないものですね」 「いやわからないっつーか、これいきなりものすげー不利になったんですけど」 にこやかに光秀は笑う。 「そこを何とかしてください。頼りにしてますよ」 「おーけいわかった。だからその鎌引っ込めてぷりーず」 ゲームをやるとなった光秀は、さてどうしたものかとこういった未来のものに詳しそうな奴を適当に探した所、幸運の女神に飛び膝蹴りでも喰らったらしい上条当麻君がすぐそこに居たというわけだ。 「不幸だああああああああああああ!」 「はいはい、泣き言はいいですからさっさとやってください。それに何だかんだ言って貴方も結構楽しんでいるじゃありませんか」 「そりゃ……まあ、ゲームで勝負ってんなら平和だし、俺も口で言ってくれりゃ協力だってしたさ。……だから! その鎌引っ込めろって!」 「いえいえ、これは脅しているのではなく、上条君の反応が楽しいからそうしてるだけですよ」 「一緒だろうがああああああああああ!」 そこで、振り返る光秀。 「そういう事なのですが、何か御用ですかお嬢さん?」 部屋の入り口からふらりと姿を現したのは、御坂美琴であった。 いきなりいなくなった当麻が心配になったとか、口が裂けても彼女は言ってあげないだろう。 「ん、わかった。ならいいわ、私も協力してあげる」 実に快い御坂さんのお言葉に、当麻は即座に返事を返す。 「いらん帰れ」 「なっ!? 何よその言い草! 私が手伝ってあげるって言ってるのよ! 素直に感謝感激雨霰を表現しなさい!」 「いや別にいらねえし。お前居ると大抵ロクでもない事に…………」 そこで当麻ははたと気付いた。 脅し抜きでもこの戦国生命体と会話を交わすのは神経が疲れる。 ならば、会話やらはぜーんぶ美琴に押し付けてしまえば、らくらくかつ楽しいゲーム環境が約束されるのではないかと。 そう考えた当麻は態度を急変させる。 「いや! 居ろ! むしろ(光秀の)側に居てくださいお願いします! もうビリビリさんが居るだけでこの部屋に彩りが増す事間違いなし! そうでしょう明智の光秀さん!」 「ええ、協力してくれる方が増えるのはとても嬉しいですねぇ」 「つーわけだ、ビリビリ。お前も手伝って……って、おい、お前どうした?」 美琴は顔を抑えたまま俯き加減、上目遣いで当麻を睨む。 「……~~~っ!! あ、アンタッ!」 「何だよ。どうかしたのか?」 「何でもないわよ! と、ともかく! さっさと説明書寄越しなさい!」 超理不尽な逆ギレであるが、まあ何時もの事なので当麻はさらっと流す。 結構な時間この部屋に缶詰だった当麻は、コントローラーをゲームに慣れる意味でも美琴に任せ、ちょっと食事でも取ってくると部屋を出た。 336 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22 52 28 ID 4322JIo6 【インターミッション これがやりたかっただけ。後悔はしていない】 ものっそい驚いた顔をしている美琴を尻目に部屋を出た当麻は、開放感と共に大きく伸びをする。 「いっやぁ、ようやく羽を伸ばせる。こりゃビリビリ様々だな」 なんとなく興が乗ったので、お礼に食事でも作ってやるかと調理室へ。 そこには先客が待っていた。 「おっと、確か……衛宮、だったか」 キッチンで妙に似合っているエプロンをつけていたのは、衛宮士郎であった。 「ん? 上条か。そっちも食事か?」 「まあな。お前、メシ作れるのか?」 ちょっと苦笑いの士郎。 「家に欠食児童が居たもんでな」 ぷっと吹き出す当麻。 「ははっ、俺の所もそうだ。ひでぇもんだぜ、ちょっとメシ忘れると頭に食いつかれるんだ」 「あー、わかるわかる。ウチもそんな感じだった」 あっという間に意気投合した二人は、一緒にやるかと食事の準備を始める。 会場での出来事を話題に出すとどちらもドへこみするのがわかっていたので、それ以外の話題をとなり、自然と食に関する話をする事になる。 というより、やたら食うだけの同居人の話題がメインだ。 「最初の内はそれこそ残飯でも食い漁る勢いだったからなぁ、一食でも抜かすとエライ顔して怒り出すし、勘弁して欲しいよ」 「俺はせめても食事作るのが一人じゃない分楽だったかもな。……いやまあ、欠食児童途中から一人増えたんだが」 調理を進めながら和やかに談笑する男二人。 これを、調理室の入り口から覗き込む影があった。 「……アイツ、人にゲーム押し付けといて何やってるかと思えば……」 歯軋りが聞こえそうな勢いの御坂美琴であった。 いや、お前こそ何やってんだという話な気がしないでもない。 「本当ですわ。まったく、誰の為にゲーム手伝ってると思ってるんですか」 「そうよそうよ。大体ね、アイツは何時も…………へ?」 ひょこっと美琴の脇より室内を覗き込んで居るのは、黒子であった。 「ちょっ! 何で黒子まで居るのよ!」 「お、お姉様、しーっ、しーっ、バレちゃいますわよ」 突然の登場に驚く美琴であったが、黒子と士郎の話は聞いていたので黒子がここに居る訳はそれなりに察する。 美琴はやたら非生産的な嗜好に傾倒する黒子を、何とかならないものかと頭を悩ませていた事もあり、士郎との仲に関してはとても嬉しい話と受け止めていた。 「……やっぱり気になる?」 「うっ……まあ、その、正直に申しますと、ものすごーく気になります。それほど士郎さんの事を知っているわけではありませんし」 微笑ましい顔で美琴はこれを見守ってやろうと考えるのだが、ちょっとだけ気になる事を黒子に問いかける。 「そっか、応援してるわ。頑張りなさい……と思うんだけど、何でそんなに引っ付くのよ」 「役得……いえ、こうしないと良く見えないんですの」 「いやいや、顔だけ無理矢理室内に向けつつ、人に抱きついてる体勢って、そっちのが苦しくない?」 「お姉様のぬくもりを感じられる好機をわたくしが見逃すはずありませんわ」 「……衛宮さんはどーしたー」 黒子は真顔で美琴を見上げる。 「それはそれ、これはこれですわ」
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少女には向かない職業 ◆1aw4LHSuEI ――――――ねえ、イリヤスフィール。 ――――――なにかしら。 ――――――どうして、人間はこんなに愚かなんだろうね。 ――――――不完全だから。……貴方はいつもそう言っていたわよね? ――――――そうだね、そう。完全に作られた僕たちとは違う。 ――――――私と貴方を一緒にしないで欲しいけど。 ――――――それでも、僕は彼らを救わなくちゃいけない。……ふふ、神もこういう気持ちだったのかな。不思議な気持ちだよ。 ――――――リボンズ……? ――――――この気持ち……まさしく愛だ。 ――――――愛!? ……いや、多分違うと思うけど。 ――――――だが、愛を超越すればそれは…… ――――――……リボンズ、貴方もしかして暇なの? ――――――…………。 ――――――…………。 ――――――…………ふっ。 ――――――リボンズ、私は結構疲れてるんだけど……。 ――――――イリヤスフィール、ゲームをしないか? ――――――……ゲーム? † † † 【廃ビル / 秋山澪】 「……侵入者だと?」 どうしてこう悪いことって言うのは次々やってくるんだろう。 モモからの通信を受けて、私はそんなことを思った。 『ん、そうっすよ。ホバーベース内に侵入者っす。人数は一人……。こっちの呼びかけは無視されました』 私たちの移動拠点ホバーベース。その内部に入り込んだ奴がいるらしい。 そんな報告を受けたのは、廃ビル群の探索をいくらか進めている最中のこと。 呼びかけには答えず、警備ロボットの追跡を振りきり、今は格納庫にいるとのことだった。 「……格納庫! 私のサザーランドは大丈夫ですか!?」 血相を変えて叫ぶ憂ちゃん。 強力な武器ってこともあるけど、なんだかあのロボットに思い入れがあるようだ。 ……私と違って随分と乗りこなしてたみたいだしな。 とはいえ私だって憂ちゃんほどじゃないけれど、自分のサザーランドがどうなってるかは気になった。 ……まさか奪われたりしてないよな? 「起動キーは自分で持ち歩いてるじゃないっすか。盗られたりはしてないっすよ。 今のところ壊す気もないみたいっすね」 「ほんと? ……よかったー」 喜ぶ憂ちゃんを見ながら、私も安心する。 サザーランドは無事か……よかった……。 …………。 律がいたら。 興味なさそうな振りしといて、報告を聞いて安堵する。 そんな素直じゃない私のことに気が付いて、茶化してきたかもしれないな。 「―――気を抜くにはまだ早いぞ。相手が格納庫に篭城するなら、こちらもナイトメアを使うのは難しいということなんだから」 水を差すようなルルーシュの言葉。 とたんにしょぼんとする憂ちゃん。空気が暗くなる。 だけど、もっともな言葉だ。相手もそれを狙ってるのだろうか? 「そしてあわよくば俺たちを返り討ちにして起動キーを奪うつもりなのかもしれないな」 私がふと発した疑問に答えるルルーシュ。 なるほど……。つまり侵入者は。 頭の回る奴―――というより、抜け目がない奴―――なのか? 「まあ、只の考え過ぎかも知れないが」 『どうであれ、たった今面倒なことになってるのは間違いないっすよ』 「そうですね! 早く戻って桃子ちゃんを助けないと!」 「……そうだな。ここでホバーベースを失うわけにもいかないんだしさ」 憂ちゃんの意見に賛同を返しておく。 それにモモとは秘密同盟の約束もあるんだ。 なのにいきなり死なれたりしたら……困る。 「そして侵入者をブチ殺しましょう!」 「……えっと、うん……そうだな」 「……今回はそれでいいだろうが、一応懐柔できそうなら仲間に入れるという方針を忘れるなよ?」 その元気のいい声に、若干引きつつも賛同した私。 そしてそれに冷静に突っ込むルルーシュ。 内容が物騒なことさえ除けば、仲の良い友達同士にも見えるのかも知れない。 「桃子、今から戻る。―――それまで、死ぬなよ」 「……大丈夫っすよ。私にはステルスがあるんすから。 そっちこそ、死なないでくださいよ? 今ルルさんに死なれたら困るんすからね」 「ああ、分かっている」 「じゃ、そろそろアレなんで私暫く連絡取れなくなるっすけど……」 二三言適当に言葉を交わして、通信は切れた。 ―――白々しい内容だ。 モモはルルーシュを殺すことを狙っているし、ルルーシュだって私たちを使い潰す気だろうに。 「澪」 「……ひゃ、え、な、なに……?」 そんなことをぼんやりと考えていたら、ルルーシュから声をかけられていた。 「いや、少しぼんやりとしていたように見えたからな。驚かせたなら悪かった」 「べ、別にいい……けど」 慣れない。 ルルーシュ・ランペルージという存在に、これから先秋山澪が慣れることなんてあるのだろうか? 元々の人見知りもあるけれど……。 裏切ろうとしている、ということが後ろめたさにつながって、まともに顔を見れる気すらしない。 「……戦闘中に呆けていて、味方を背中から撃ってしまっては笑い話にもならない。 ―――誰が敵なのか、味方なのか。よく考えたほうがいい」 「―――え?」 驚いて、逸らしていた目をルルーシュに向ける。 だけど、もう憂ちゃんを伴って歩き始めていて、表情を見ることは出来なかった。 (……バレてる?) 心臓が早鐘を打つように響く。 鎌をかけられただけなのかも知れないけれど……。 少なくとも、私が裏切ろうとしている可能性ぐらいは十分に考えてるって、ことだ。 ……どう……する? 二人から不信に思われない程度に離れながら付いて歩く。 楽しそうにルルーシュに話しかける憂ちゃんがどこか遠く見えた。 その時だ。 『……ちょっといいっすか?」 「ひっ……!? あ、ああ。モモか」 個人回線。 先程暫くは連絡の取れなくなるといったモモが。 私だけに連絡を入れてきた。 ……これは。 「なんだ……?」 前を歩いている二人に気付かれないように、私はモモに小さな声で答える。 『少し、お願いがあるんすよ』 「…………」 お願い。 それはきっとルルーシュ達を裏切るような種類のものなんだろう。 『リスクは高いけれど……頼まれてくれないっすかね?』 顔は少しも見えないけれど。 通信機の向こう側で、モモが感情のない笑みを浮かべていることを、なんとなく、感じた。 † † † 【???・麻雀大会 / ???】 東家 原村和 :25000(親) 南家 宮永咲 :25000 西家 東横桃子:25000 北家 天江衣 :25000 さて、厳かに、しめやかに。麻雀大会が開催された。 ―――最も、大会などと言ってもそこまで特別な設定がなされているわけではない。 参加者全員が生身の人間であるということが、なにより大きなことだろう。 これまで行われてきた麻雀と、違うものは以下の通りと言える。 まず一つ。 カメラとマイクを通じて互いに不自由なく顔を合わせて麻雀をすることが出来るということ。 これは、生身の人間同士の勝負なのだから、なるべく普通に行う麻雀に近い感覚で行ってもらいたい。 全員の出身世界が同じなのだから、対話も弾むことだろうと配慮された結果である。 つぎにもう一つ。 点棒のレートを従来の五倍とすること。 つまり、点棒100点=50万ペリカ=血液50CC。 そういった設定となる。 これは参加者のなかに時間までに一定のペリカを稼がなければならないものがいることを鑑みた救済処置だ。 一度の闘牌で稼げる金額が多いということは、当然借金をもつものには有利になる。 また、その上で原村和には、2330万ペリカ。宮永咲には5740万ペリカが与えられている。 これは自らがこの殺し合いの場で稼いだ点棒に応じてペリカを支給した、ということだ。 もっとも、何らかの商品が買えるというわけではない。 レートも高くなったことで、僅かな点棒の損失で主催者側が死亡しては興ざめもいいところ。 そう考えられて、血液の代わりに使用できるようにするためである。 では、試合開始前の彼女らの様子でも確認するとしよう。 原村和。結局、これだけの手を打っても友人、宮永咲を巻き込んでしまったことに対する後悔か、その顔は暗い。 対戦相手が全て知人となってしまったということも原因の一つか。 せっかく待ち望んだ対面だろうに、宮永咲とまともに目を合わせることが出来ないようだ。 宮永咲。またしても殺人麻雀に参加させられるということで怯えていたようだ。 さらに、その対戦相手が知人ばかりだということに絶望に近い感情を覚えているのか、瞳に映る感情は暗い。 こうして比較すると、多少なりと覚悟を決めている原村和に比べると場慣れしていないことがよくわかる。 それがどのような結果を生むのか。……実に楽しみだ。 東横桃子。この四人の中で唯一積極的に他人を殺そうとするもの。 参加者でない二名の参戦には少々意外そうにしていたが、特別感情に変化はなし。 誰が参加していようが、自分の目的には変化はないということか。 確かな殺意。揺れぬ感情。恐らくは彼女こそがこの勝負の中心点となるだろう。 天江衣。生きるためにペリカを必要とする少女。 借金総額は残り二億ペリカ。所持金は2500万ペリカ。 差し引き一億七五00万ペリカの金額を返済するのに必要な点棒は35000点。 初期点棒からの差し引きとなるので60000点に達すれば借金は全額返済可能。 だが……それだけの点棒を稼いでしまえば、他の参加者は血液による支払いが確実に必要になる。 死者もでるだろう。 その上で、どうすべきなのか。 原村和と宮永咲が参加者にいることに気が付き、揺れる彼女の選択に期待したい。 東一局。 動揺している者が落ち着くことを待ってはくれず牌は配られる。 そして、始まってしまえば一手十秒で捨牌を選ばなくてはならない。 迷っている時間は与えられない。しかし、彼女らも素人ではない。 雀牌を目にして覚悟が決まったか、自動で牌が捨てられることになったものはいなかった。 当然だ。命をかけてのギャンブル。早々に放棄されては堪らない。 「ロン ……2000です」 意外なことに、誰よりも早く和了ったのは原村和。 そして、その相手は宮永咲だった。 「……え?」 味方だと思っていた相手から直撃を食らった宮永咲の眼に浮かぶのは驚きの表情。 当然だろう。点棒がそのまま生命線となるこの戦いで、いきなりの失点が一番の信頼していた親友からだ。 「ごめんなさい、咲さん。……でも、私を信じてください。 私たちが誰も死なせないためには、こうやって、出来るだけ早く、安く和了るべきだと思うんです」 何故かって、他人を殺すつもりがある人がいるのだから。 そう言って、原村和は対面の東横桃子を睨むようにして見る。 「う、うん……分かったよ、和ちゃん。……って、え? 東横さん?」 全く事情を知らない宮永咲は驚きの表情を浮かべる。 うっすらと感情のない微笑を浮かべるだけで東横桃子はそれに答えを返そうとはしなかった。 東二局。 ―――だが、原村和はわかっているのだろうか? 派手なオカルト麻雀と比較すると、完全なデジタル麻雀である原村和の麻雀は地味にまた早い手が多いように映る。 しかし、それはデジタルの本質ではない。 デジタルとは場や手牌の状況から最も点数を稼ぐ確率の高い方法を選択するというものだ。 つまり、現在原村和が選んだスタイルは、彼女お得意のデジタルとは、ほど遠い、どこか歪なものになってしまっている。 目的のために、やむを得ないとはいえ貫き続けたスタイルを崩した結果―――。 「ロン 4000っす」 「なっ……!」 否定し続けたから見えなくなっているものもある。 天江衣への直撃。リーチありなのに無警戒での振込。 東横桃子のステルスが発動した結果だ。 直撃した天江衣以上に原村和の驚愕は大きい。 牌が見えないなんてありえない、そう思っていたからこそ彼女はそれ自体に何の対策もしなかった。 しかし、今まで彼女が「それ」を捉えられてられていた理由は、デジタルに徹しきっていたからこそ。 それをやめた今、彼女に東横桃子の牌が見える理由など存在しない。 彼女の「孤独」は、そこまで浅いものではないのだから。 「―――機械越しだとか、デジタルだとか。それぐらいで今の私は見つけられないっすよ」 独り言のように、東横桃子はつぶやいた。 「……おまえは、衣を黄壌へと送ろうというのだな」 その、感情を感じ取れない声を聞いて、今まで沈黙を守っていた天江衣が口を開く。 それと同時に現れる水底のような不自由な気配。 パリパリと音を立てて彼女から放たれるのは気迫。 世界最高峰という自負に負けぬ実力が迫力だけで伺える。 威風堂々と、天江衣は言葉を発した。 「だが、衣はまだ死ぬつもりはない。生かされたから、託されたから。それに死んでも命があるように」 少しだけ、口元に笑みを気丈にも浮かべて。 天江衣はまっすぐに対面を見つめた。 「だから、死ねない。 そして、衣は、もう誰にも目の前で死んでほしくない ともだちが。ともだちになれたかも知れない人間が、いなくなってしまうことはとても悲しい。 そんな思いをすることも、他の輩に同様の思いをさせることも」 「……衣さん」 東三局の牌が配られる。 「―――でも、それと同じくらいに。誰にも誰かを殺して欲しくない。 だって、浅上は、後悔していたのだから。 ユーフェミアは、きっと殺したくなんてなかったのだろうから。 そんなことをしても、誰も幸せになんて慣れないと思うから」 膨れ上がる気配。 画面越しでさえ感じるほどの威圧。 東横桃子の「静」に対するならば、「動」。 息苦しさを感じさせる程の支配だった。 「故に緊褌一番に挑もう―――! 東横、お前を止める!」 「―――そうっすか」 想い人の仇が、殺人を悔いている。 そんな情報を聞いてすら、東横桃子は揺るがない。 「まあ、なんでもいいんすけど」 ―――どうせ、全員殺すのだから。 † † † 【ホバーベース内・廊下 / アリー・アル・サーシェス】 おいおいおいおい。 マジかよ、あのガキ。 驚くしかねえ。体がまともに爆風に晒される。 「やたっ! 当たりましたよルルーシュさん!」 「……ああ、良くやった」 アイツ、投げつけた爆弾を空中で撃ち落としやがった。 そんなこと一朝一夕の訓練で出来る行為じゃねえんだぞ! 撃ちぬかれた爆弾は、当然衝撃によってその場で爆発する。 位置次第によっちゃ空中で爆発することは構わねえんだが、いくらなんでも俺までの距離が近すぎる! 飛び退いた瞬間に吹き荒れる爆風。ゴロゴロと転がって爆発の勢いを殺しながら考える。 今、歴戦の傭兵である俺を驚かせているのは、たった二人のガキと小僧。 特に、俺の感想からすれば、小賢しく指示を出してるイケメンの小僧よりもそれを忠実にこなせているフリフリのガキがやべえ。 空中で動くものを撃ち落としたという事実そのものに驚いてるわけじゃない。 それだけなら玄人でも難しいだろうが(そもそも拳銃は本来狙い撃てるような武器じゃねえ)、狙撃の天才なら不可能ではないだろう。 だが、あのガキはついさっきまで銃の持ち方すらあやふやだったぐらいのド素人だった。 演技や罠ってもんでもねえ。そこまで演技でやる必要はないだろうし、なにより俺の勘がそう言っている。 ……ハハ。 つまりなんだ。 俺と闘いながら銃の撃ち方を学んで神業レベルまで到達したってこったか? ……面白くなってきやがった! ―――冗談じゃねえぞ。 「戦争屋舐めてんじゃねえ―――!」 「っ! ……あー、もう。危ないじゃないですか! 殺す!」 銃弾をばらまきながら後退する。 だが―――。 「――――」 銃弾はデカいカニに弾かれた。 ほとんど牽制にもなりゃしねえ! 「うっぜえ! 何だっつーんだ、そのワケの分からねえカニは!」 「何って……神様に決まってるしょうがっ!」 「ああ!? カニ様ぁ? ご生憎とご存知ねえなあ!」 そう、防戦に回ってる最大の理由がガキが乗ってるあのカニだ。 デカさと速度的にぶつかられたらほとんど致命傷だろうし、銃弾程度では一瞬ひるむ程度の効果しかない。 カニにいくら銃で攻撃したって無駄だろう。 丈夫な奴だ。 ―――だが、銃弾を上のガキへの命中コースに撃った場合はどうだ? カニは腕を上げてそれを防御するしか無くなる。 当然、目の前にださせた腕は視界を狭くする。 その状態で無理やりこっちに進ませりゃ、腕が目隠しになって―――。 俺の行動に気付けなくなる。 さあて、どうするかな、っとお! 「いっけ―――!」 「待て、憂! 止まれ!」 「え?」 「ちっ!」 カッ、と音が鳴り激しい爆風が巻き起こる。 俺が死角を狙って放った爆弾が爆発したのだ。 カニのわずか前で起こったそれは直撃すれば無人兵器を破壊できるほどの威力がある。 「ぎゃふっ! ……いったーい! もう!」 「憂、あまり前に出過ぎるなよ」 「わかりました! ブチ殺します!」 「だから、待て。……憂!」 だが、あの小僧が気づいて声をかけたせいでギリギリブレーキして致命傷は防ぎやがった。 つーか、大したダメージはなさそうだ。直撃でもねえと効きそうにもねえな……。 ……カニってのは腹の方は薄そうだから、倒しとくにはいいタイミングだと思ったんだが。 ……ま、それでも充分な衝撃を与えた。 この隙に全力で走れば振りきれるだろう。 今のうちにちょっと状況の立て直しを測りてえ……。 戦略的撤退といこう。 そう考えて、廊下の角を曲がる。 「誰だお前」 「…………」 そして、廊下の向こうに居た女に訝しげな表情でそう尋ねられた。 ―――そういうお前は確か……名前は聞いてなかったか。 とにかく和服のネーちゃんと、デュオっつーガキが5メートルほど離れてそこにいた。 「バカ! 銃持ってるじゃねーか! さっき聞いた侵入者だ!」 なるほどな。こいつらもこのグループの一員ってわけだ。 しかも報連相も行き届いてるようで、俺のことは連絡済み。 やるじゃねえか。 ……あの化物を相手にして生き残った二人と、追いかけてくるデカいカニ。 前門の虎、後門の狼てか? さあ、どうする!? 決まってるだろ! 正面突破先手必勝ぉ! まだこいつらの方が手の内はばれてねえ分やりようはあるしな! 立ち止まらずに思いっ切りよく突っ込んでいきながら爆弾を投擲。 数に限りはあるが惜しんじゃいられねえ。大盤振る舞いだ! 持ってきな! 「! 下がれ、式……! って、おい……!」 デュオって奴は戦い慣れてやがるのか。 爆弾と予測して後ろに距離をとりやがったが、女のほうはどうにもよく分かってねえみたいだった。 むしろそのままこっちに向かって歩いてくる。 間抜けが。直撃だ! 喰らえ。ドカン―――! スパン。 と、そんな効果音が聞こえそうな気がした。 「「は―――?」」 アホ声のユニゾン。 デュオって野郎と俺の声が重なる。 ―――嘘だろ。 爆弾をカタナで切りやがった。 まるで抵抗もないようにさっくりと。 いや、それはいい。 行動的にはおかしいけれど、物理的にありえないわけじゃない。ぎりぎり。 ……だがよ、なんで爆発しねえんだ!? 「……ちっくしょう!」 何時までも呆然とはしていられねえ。 女まで残り2メートルってところ。 正直な話、今のを見てからじゃあまともに殺り合いたくはないんだが。 ここから方向転換して後ろに逃げようにも……。 「あ、式さん達! そいつ逃がさないでくださいよっ!」 後ろはあのイカれたガキとイケメンがいるし。 ―――なにより、この女相手に背中を見せたくない。 ……行くしかねえかな、接近戦っ! 一気に踏み込んで間合いへ。 当然向こうも黙ってはいない。 俺の動きに合わせるようにカウンター気味にカタナを繰り出してくる。 成長しきってない女の体。 徒手空拳に対しカタナ。 射程も速度も相手の方が早い。 近づきゃ不利なのは俺だ。 だが! ここでいくぜ最後の最後の切り札ッ! 空気中に電流が流れる。火花が散る。 俺にしか認識出来ないほどの僅かな電流。 だが、これが紛れもない俺のワイルドカード。 小さな、されど今俺にできる最大の放電。 体内電流の操作による反射神経の鋭敏化。 つまりは、超速の―――カウンター! 「!」 それを持って神速の剣戟を―――避ける。 わずかに驚いたような顔を見せる女。 直接相対した奴にしか分からないかもしれない、けれど確かな反応速度の向上。 そして作りだしたこの一瞬の隙。 ―――ボディががら空きだぜ。 貰った―――! と、言いたいところだが。 俺は刀を掻い潜って、その女の脇を通り抜けた。 ……撤退時に攻撃するなんて妙な色気を見せてる余裕はないんでな! 言われなくてもスタコラサッサだぜぇ! デュオの奴も銃で足止めしてくるが、この反応速度なら全て躱すこともできる。 女の方を気にしてそこまで自由には撃ててないし、余裕余裕。 こっちも撃ち返して牽制しながら走り抜けた。 最後にちらりと後ろを向いたら、カニがブレーキをかけきれずに思いっきり突っ込んだらしい。 大慌てしていてなかなか愉快だった。 さぁて逃げる逃げる逃げるぜ。 しっかし。 ……やっぱ群れてる奴らに一人じゃきつい。 体に慣れてねえこともあるし、あまり不用意に突っ込みたくはねえよなあ。 とはいえ偽名を名乗らざるを得ねえ俺では仲間は作り難いっつーのも問題だ。 やっぱもっと強力な武器を見つける、ってのが一番無難か? ―――ここらでちょいと、機動兵器のみやげぐらいは欲しいよな。 逃走のために走り続けながら、俺は格納庫の光景を思い出してた。 † † † 【ホバーベース内・廊下 / ルルーシュ・ランペルージ】 「やれやれ……」 戻ってきて早々に侵入者と偶発的に遭遇。 なし崩しに戦闘に入ったときはどうなることかと思ったが……なんとか引かせることが出来たか。 走っていった少女の背中が廊下の奥に消えてから俺、ルルーシュ・ランペルージは溜息をつく。 あちら側にしても不測の対面だったから良かったが、待伏されていればどうなったことやら……。 ホバーベースの損傷も機能的には大して問題はない上に、人的被害も小さい。 最小限の消耗で押さえられたと言い切ったっていいだろう。 先に桃子から侵入者の情報を得ていて警戒していたためとも言える。 しかし……。 「……もう、逃げられちゃったじゃないですか!」 「悪い。けど、あんま乱射しても式に当たりそうだったからな。多少よけられやすくても足元狙うしかなかったんだよ」 「―――お前が蟹で突っ込んでこなかったら、追撃できてたかもしれないけどな」 「む……」 ぐちゃぐちゃに蟹やら荷物やらをぶちまけた憂と式、デュオの会話。 式の言葉に憂は不満げな顔を見せるが、反論はしない。 黒の騎士団の仲間というわけではないから自重しているのだろう。 ……まあ、それぐらいの空気は読める。 「やめとけって式。あ、それよりお前、爆弾切ってたよな。あんなことも出来たのか?」 「ん……? ああ、出来るみたいだな。成功してよかったよ」 「おい」 「それより」 両儀式が俺の方に歩いてくる。 相変わらず何を考えているのかわかりにくい顔だ。 「秋山はどうした?」 秋山澪。 彼女は現在ここにはいない―――。というより、先程の戦闘にも途中から参加していない。 後半こそこちらが押していたが、当初憂が蟹をデイパックから引っ張り出すまではむしろ押されていた。 そんなときに爆弾を始めて受け、左右に飛び退いて分かれる。追撃をやり過ごしている間にはぐれた。 それ以来合流出来ていない。……このホバーベースはそれほどに広いというわけでもないのに。 侵入者の少女は終始俺たちと戦っていたから、既に殺されているということはないだろう。 ……侵入者がもう一人いるなんてことがなければ。 ―――まあ、桃子の話を信じるならば、それはないだろう。 そんなところを、問題の無さそうなところだけ掻い摘んで話した。 「へえ……。じゃあ、やっぱりあれは秋山だったのかもな」 「どういうことです?」 俺の返事には答えずふいと後ろを向かれる。 ―――どうにも好かれていないようだ。 鋭いようだし、俺の本性に薄々気づいているのかも知れないな。 彼女の能力は把握しきっていないことだし、あまり目の前で不用意なことはしたくない。 「―――秋山を探しに行ってくる」 「ちょ、待てよ、式」 自分の調子を崩さない彼女に、デュオは未だペースを崩され続けのようだ。 少々共感する。まとめ役は苦労させられるものだよな。 ……後で時間が出来たときにでも色々と聞いてみようか。 「構いませんよ、式。さっきの侵入者と澪が一対一で遭遇してしまう可能性を考えれば、むしろこちらからお願いしたいぐらいです。 ……ただ、デュオ。お前は残ってくれないか? こっちも半分怪我人の俺と憂だけじゃさっきの侵入者がもう一度襲いかかってきたときに対応しきれるか分からないんだ」 これは本音だ。 デュオと少し会話を楽しみたいという俺の個人的な意見も混じっているが、な。 「俺はいいけど……式は一人で大丈夫か?」 「ああ、あいつぐらいなら次からはオレ一人で勝てるよ」 誇張を感じさせない少女の意見。 平然としたその顔で言う言葉に嘘が混じってるとは思えない。 少し心配そうにしていたデュオだが、その言葉に折れて頷いた。 「分かった……。だけど、秋山を見つけたらすぐに連れて帰ってこいよ」 「―――お前はオレの保護者なのか? 行ってくる」 「ああ、俺達は制御室にいますので、戻るときはそこまで」 呆れたような顔をして返事をし、走っていく式。 とはいえ、言葉ほど嫌そうには見えなかった。 やはりデュオを信頼しているのだろう。 ―――なんだ。意外と読めるものだな、彼女の表情も。 「さてと、式が戻ってくるまで俺達はどうするんだ?」 「先程も言ったとおり、まず制御室に行こう。そこを侵入者に掌握されたら厄介なことになってしまうしな。 ……分かったか、憂?」 「はい、ルルーシュさん!」 廊下に散らばった蟹と荷物を片付けながら憂が返事をする。 会話に割り込めそうになかったから片付けをしていたようだった。 ……そのくらいの空気は読む。一応。 「……それと。デュオ」 「……ん、なんだ?」 制御室に行こうと若干の警戒を残しながら歩き始めたデュオの横に並んで、話しかける。 「俺の言うことを疑わないで聞いてくれるか?」 「ああ……分かった。なんだよ」 こちらを向いたデュオの瞳を俺は見つめる。 真剣な表情を作り、他の誰にも聞こえないように俺は言った。 「この艦内に……もう一人侵入者が居るかも知れない」 ―――さて、桃子。 お前はどうする? † † † 【???・麻雀大会 / ???】 天江衣の支配。 同世代最強クラスとまで言われる絶大にして強大なその能力は、 解放すれば、『対戦相手は手が揃わなくなる』。 役が、ろくにできなくなる。 それと対称的に天江衣にはよき牌が揃う。 一言で言うならば、確率を操作している、といったところだろうか。 まさに反則とすら言ってもいい能力。 本人が人間の域を逸脱したと自称するのも理解出来ない話ではなかった。 無論、破る方法が皆無というわけではない。 宮永咲ならば、いつかやってみせたように、それ以上の運命操作とでも言うべき力で乗り越えるかも知れない。 原村和なら、そんなオカルトありえませんとでも言いながら、無効化することが出来るのかも知れない。 だが―――。 「流局、だな」 「…………」 「無味乾燥だと、思うか? 衣とて本意ではない。常に全員に役にならない牌を配り、流局にし続けるというのは」 現在、麻雀大会は南二局が終了。 東横桃子が和了った東二局以来、ここまで四局全て、流局という結果に終わっている。 衣の能力で場を支配。 そして、東横以外はベタオリときては、それも致し方ないことだろう。 無敵とも思えるステルス。 誰にも発見されず、影響されず。 リーチ牌どころか捨て牌すら見えずに危険牌の判断すら不可能というその能力は確かに絶大だ。 本来ならば、今の東横桃子相手にはベタオリすら出来ない。 だが、彼女には圧倒的に欠けているものがある。 それは、場の支配を覆す力。 対人相手に完膚無きまでの力を持つ彼女だが、運命や確率については完全に門外漢。 天江衣に抗う術などはないのだ。もしも天江衣が東横桃子を殺すつもりならとっくに達成されていただろうほどに。 ……ここまでお膳立てを整えたが、つまらない勝負になりそうだな。 画面を見つめながら、私はそんなことを思う。 「はは。……正直お手上げっすよ。そんなことされたら」 「諦念に至ったか?」 「まさか」 ステルスの精度を気にしてか今まで殆ど口を開かなかった東横桃子が返事する。 最早そんな行為は無意味だと悟ったか。 「あなたこそ、どうなんすか。わざわざ大会に参加したってことは、ペリカを稼ぎたいんすよね? ……このまま流局続けるなら手持ちのペリカが減るだけっすよ? いいんすか?」 「―――衣に取って麻雀とは自分の全てだと言ってもいい」 「は?」 「衣は、幼年の頃に父母を亡くして以来、ずっと一人だった」 南三局開始。 一手十秒という縛りがあるので手を進めながらも、突然に語り始めた衣に不思議そうな顔を見せる東横桃子。 「衣のことを誰もが遠巻きにした。……衣も、無理に関わろうとはしなかった。 だから誰も、いなかった。衣は一人だった」 「…………」 「でも。麻雀が出会わせてくれた。気づかせてくれた。龍門渕のみんなや、ここにいるはらむらののか、清澄の嶺上使い。 ここに来てからも、麻雀で仲良くなれたものもいる。―――麻雀が衣に家族を、ともだちをくれた」 龍門渕透華や伊藤カイジのことを思い出しているのか。 目に涙を浮かべながらも、衣は東横桃子を見据えて言う。 「―――でも、奪われた。とーかもカイジも死んでしまった! とても悲しくて、辛くて……だから。 だから、衣は嫌なんだ。絶対に、麻雀をそんなことのために使ってほしくないんだ……。 衣に友を与えてくれた麻雀を、人殺しの道具にはしてほしくない」 「……そう、だよ」 目に涙を溜めながら、宮永咲が口を開いた。 それほど積極的な正確とは言えない彼女が。 人殺しになってしまった彼女に向けて言葉を送る。 「私、あまり麻雀が好きじゃなかった。昔嫌なことがあって純粋に麻雀を楽しむことが出来なかった。 だけど、清澄に入って皆と会って……今は麻雀が好き。それなのに、こんなの、やだよ……。 ねえ、東横さん、やめよう? ……だ、だって。一緒に合宿して麻雀して……東横さんも楽しそうだったよ。だから……」 そのまま、涙を溢れさせる宮永咲。続きはもう言葉になっていなかった。 思えば気丈に振舞っていたものだ。 何も判らないままに拉致され殺人麻雀に参加させられ、殴られて。 心細かっただろう。辛かっただろう。頼りたかっただろう。 本当ならば顔を見た瞬間に友人にすがりつきたかっただろうに。 ことの重大さを考えて我慢していたのだろう。 ―――ああ、悪くない。 「―――東横さん。私は、ずっとこの殺し合いがどうなっているのかを見ていました」 宮永咲の後をつなぐ様に、原村和が話し出す。 全てを見ていた、見ていることしか出来なかった少女は。 いったい何を告げるのか。 「……だから、あなたが殺し合いに乗った理由も分かっているつもりです。 加治木さん。彼女を生き返らせるため、ですよね……。 気持ちは、きっと理解出来ている。私だって、私だって多くの人を見殺しにしたようなものだし。 咲さんが同じ目にあったと思うと……もっと積極的な手段に出ていたかも知れない」 「のどか、ちゃん……」 「……でも、だけど。やっぱり、駄目です。だって、そんなこときっと咲さんは望まない。 たくさんの人を犠牲にしてまで自分が生き返ったって。……加治木さんも、高潔な人でした。 あの人だって、そんなことを望んだりは、きっとしません。あなたは、それでも……」 彼女は多くの人間の死を見ていた。 運営側でありながら、脅迫されての協力という特殊な立場。 最愛の少女を目の前にして、仕方ないのだと言い訳をしながらも犠牲を重ねてきた彼女は、言葉を紡ぐ。 「それでも、人を殺すんですか?」 彼女なりに迷ってたどり着いた。 宮永咲自身の姿を直接見て、決意したのか。 今まで迷っていた部分を、しっかりと見据える。 誰かを犠牲にして、誰かを助けるべきじゃない。 その答えに、たどり着いたか。 「―――そうっすね」 黙って聞いていた東横桃子が口を開いた。 「麻雀が、私と先輩を出会わせてくれた。麻雀があるから、鶴賀のみんなといられた。 ……合宿も、楽しかったっす。麻雀をするのも……」 「だったら、やめましょう……?」 説得できるか。 そう思ったのか、希望を込めて原村和が声をかける。 「でも」 ―――もう、いらない。 「え……?」 「―――東横さ……。?!」 爆音が鳴り響き画面が揺れる。 映し出される部屋の一つが曇り、もうもうと背後で煙が立っている。 「な。……いったい何が!?」 さらに続けて巻き起こる爆音。 視界の悪くなったウィンドウの端に、頭から血を流して倒れる少女の姿が写っていた。 † † † 時系列順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅤ Next おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 投下順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅤ Next おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 277 仮面 デュオ・マックスウェル 281 おわりのはじまりⅤ「最後の挨拶」 277 仮面 両儀式 281 おわりのはじまりⅣ「アリー・アル・サーシェスと秘密の鍵」 277 仮面 平沢憂 281 おわりのはじまりⅤ「最後の挨拶」 277 仮面 ルルーシュ・ランペルージ 281 おわりのはじまりⅤ「最後の挨拶」 277 仮面 秋山澪 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 278 ......and nothing heart. 東横桃子 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 278 ......and nothing heart. アリー・アル・サーシェス 281 おわりのはじまりⅣ「アリー・アル・サーシェスと秘密の鍵」 279 女 の 闘い -無知- 天江衣 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 274 はじまりのおはなし リボンズ・アルマーク 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 274 はじまりのおはなし イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 276 友達の定義 宮永咲 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 277 仮面 原村和 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」 277 仮面 言峰綺礼 281 おわりのはじまりⅡ「東横桃子は笑わない」
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薔薇アッー! 俺がガンダムなのか!? ◆8d93ztlX9Q 太陽光発電所。そこはその言葉で表すには余りにも大規模だった。 ソーラーパネルが数百基犇めく屋根。MSの製造工場と言っても通じるだろう敷地。 G-1及びG-2エリアの陸地の90%以上を占めるその威容は、刹那・F・セイエイを引き寄せた。 「ここならばモビルスーツがあるかもしれない……」 刹那はぼそりと呟くと、見張りが居ないことを確認して発電所に侵入する。 入り組んだ通路を歩きながら、今回の一件について考えをめぐらせる。 (殺し合いか……イノベイターとの最終決戦を前に厄介な事になったな) 既に名簿の確認は終了済み。顔見知りはアリー・アル・サーシェスとグラハム・エーカー。 どちらも危険な存在……世界の歪みだ。少なくとも自分の味方ではない。 奇妙に冷静な思考を巡らせながら、刹那が通路の角を曲がる。 人類初の純粋イノベイターとして覚醒しつつある刹那は、この状況でもなんら普段と変わらぬペースで体を動かせた。 (名簿に乗っていない12人の参加者……普通に考えるならば帝愛の回し者だろうが、こちらをかく乱するための 罠とも考えられる。ロックオンやティエリア、それにこの状況を考えればスメラギ・李・ノリエガがいてくれればいいが) 自分が所属する組織、ソレスタルビーイングの優秀な戦術予報士に考えが至ったところで、刹那は足を止めた。 ゴウン、ゴウン……聞き覚えのある起動音が、目の前のドアの向こう側からしている。 ドアを開けると、そこには――――。 「エクシアの太陽炉……!」 自分のかっての愛機、エクシアに搭載され、今はダブルオーガンダムに移植されたはずの太陽炉が稼動していた。 地下まで空いた空洞から伸びる柱を見回す、円周状の部屋。柱の頂点、刹那の視線の先に掲げられた太陽炉。 複数のパイプに繋がれ、どこかにエネルギーを供給しているように見える。 「何故ここに……」 初めて狼狽したような様子を見せ、空洞を見回しながら部屋を回る。 人力では取り外せそうもないし、そもそも道がないので近づけない。 刹那は名残惜しそうに太陽炉を眺めていたが、入ってきたドアの丁度向かい側の位置まで来て、 初めて太陽炉から目を離した。そこにもドアがあったからだ。敷地面積と自分が歩いてきた距離を考えると、 まだ八割ほどのスペースが残っているはず。まさか、この向こうにも幾つかの太陽炉があるのだろうか。 あるいは、太陽炉を失ったエクシアかダブルオーが……!? 「今行くぞ! ガンダム!」 ドアを開け放ち、駆け込んだ刹那の目に映ったのは……。 「これは……」 『男湯』 『女湯』 『 G N ス パ 』 看板に書かれた説明書きを見る限り、この巨大な施設の面積の約八割が入浴施設らしい。 入る者の愉しみと健康保持を熟慮した、数多の風呂。露天風呂はさすがにないようだが。 「何故発電所に入浴施設が……?」 一瞬困惑する刹那だったが、考えても仕方ない。実際に目の前にあるのだから……。 すぐに落ち着きを取り戻し、支給されたバッグから、車のハンドルほどの機械を取り出す。 それは、首輪探知機だった。周囲1kmの首輪の反応を拾い、表示する。 「本当ならエリアの中心で使いたかったが……ここから先がしばらく風呂場なら、機械を持ち込むのは危険だ」 起動スイッチを押し、ディスプレイを確認する。この機械はどうも欠陥品らしく、常時エネルギーを蓄えているが、 一時間チャージしても一分弱ほどしか起動できないと付属された取説に記載されていた。 周辺のかなり詳しい地形、そして首輪の現在地が表示される。自分の反応は除いて、映った反応はひとつ。 「女湯には……誰も居ないようだ。男湯に一人。この状況で風呂に入るとは、まともな人間ではなさそうだな」 男湯の暖簾を潜り、脱衣所に入って服を全て脱ぐ(全裸)。 腰に置いてあったタオルを巻きつけ、堂々と風呂内部に侵入した。 「電気風呂、ジャグジー風呂、麻婆豆腐風呂、麻雀風呂……なるほど、スパというだけはあるな」 入り口からすぐの掲示板に様々な風呂の案内と見取り図が書かれていたが、それらを物色するほど暇ではない。 刹那は先ほど探知した位置、個室風呂に歩を進める。 十数分後、刹那はその部屋の前にたどり着いた。耳を澄ませば、チャプチャプと水音が聞こえる。 まだ入っているらしい。刹那はノックも遠慮もなく、ドアを開け放って湯気に目をしかめる。 遅れて薔薇の香り。中に入っていた男は慌てることもなく、刹那を見て微笑む。 「私の名はトレーズ・クシュリナーダ。ご覧の通りの男だよ」 「俺は刹那・F・セイエイ。……ここは個室風呂。特徴のない普通の湯のはずだが、何故薔薇が?」 「入浴剤(エッセンス)だ」 男……トレーズが入浴っている浴槽には、薔薇が浮いていた。 薔薇風呂といったところか……刹那は浴槽の隣の、プラスチック製の椅子に腰を下ろし、トレーズに語りかける。 「……何故スパに?」 「私は心の弱い男でね。自分の心が最も落ち着く行動を選択したに過ぎない」 「そうか。トレーズ・クシュリナーダ……お前は、この殺し合いをどう思う?」 刹那が、率直に探りを入れる。 トレーズが、即刻に答えを返す。 「礼節があるとはお世辞にも言えないな。なにせ、非戦闘員さえも巻き込んでいるのだから。 戦争としては、これほど悲しいものはないだろう」 「同感だ」 「だが……これは、戦争ではないのだよ」 「……」 トレーズの言葉の意図を読めず、刹那が沈黙する。 押し黙る刹那に、トレーズが畳み掛けた。 「戦争に礼節が必要なのは、戦争が世界を変える為の物だからだ。強者には弱者を正しく支配する義務がある。 礼節なき殺戮によってもたらされた変革は、世界を、人を変えはしない。支配者が変わるだけに過ぎないのだよ。 一方、この殺し合いはどうだろうね? 勢力も地位も関係ない、純粋な個々人の争い。私は嫌いでは、ない」 「お前は人を殺すというのか。非戦闘員でも?」 「それがこの戦いのルールならば、そうしよう。私は……人間の本質を知りたい」 「……お前は歪んでいる。争いを望む者は、どんな理由があれ間違っている。変革は争いからは生まれない。 対話こそが、変革を誘発するんだ。思い直せ、トレーズ・クシュリナーダ。お前は戦闘狂には見えない。 自分の理想だけが正しいと思うな。自分の理想の為なら何をしてもいいと思うな。お前は正しい事をできるはずだ」 トレーズが、一呼吸置く。 まるで驚いたように。 淡々と会話を交わす二人の動きが止まり、数分が過ぎた。 そして、何事もなかったかのように会話が再会される。 「君は、勝者だな。私とは違うようだ」 「何が違う?」 「君は結果を見ていて、私は過程を見ているということだよ。ああ、君は正しい。 私の理想など、一人の人間の妄想に過ぎない。君の進む道の先には、きっと正しい未来が待ち受けている」 「……だが、お前はその道を歩くつもりはない、そういうことか」 . . 「ああ。私は……道を、踏み正せない。世界は戦い続けてきた。それが間違いだったと君は言う。 それでも私は、私だけは、最後の最後まで戦い続けたい。間違ってきた人間の最後の一花として散りたい。 戦うことに疲れた人類の最後のあがきとして、力に置去りにされた心の清算のために、私には戦う義務があるのだ」 「…………」 「私は……敗者になりたい」 刹那が、立ち上がる。 個室のドアの前まで歩き、トレーズに背を向けたまま問い掛ける。 「次に会ったとき、お前の考えが変わっていなければ……俺は、お前を殺す」 「ああ……私と君は、友にはなれない」 刹那は、個室風呂を後にした。 あの場でトレーズを殺さなかったのは、武器がないからでも、肉体の強度で劣るからでもない。 刹那の脳量子波は、トレーズの粛々たる言葉の底に、一縷の迷いを感じていたからだ。 脱衣所で服を着直し、トレーズの荷物らしきものを物色。流石に武器の類は何処かに隠しているようだ。 探せば見つかるかもしれないが……自分にも、一丁の銃が支給されている。 「トレーズ・クシュリナーダ……悲しい男だ」 初めて出会うタイプの男に簡潔に評価を付け、刹那は太陽光発電所を後にした。 【G-2/太陽光発電所前/1日目/深夜】 【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00】 [状態]:健康、ほっかほか、イノベイターとして半覚醒 [服装]:私服 [装備]:ワルサーP5(装弾数9、予備弾丸45発)@機動戦士ガンダム00 [道具]:基本支給品一式、GN首輪探知機(一時間使用不能)@オリジナル、ランダム支給品0~1(確認済) [思考] 基本:世界の歪みを断ち切る。 1:島から脱出する。 2:専守防衛。知り合いがもし居たら合流。 3:サーシェス、グラハム、トレーズに警戒。 [備考] ※参戦時期はセカンドシーズン第23話「命の華」から。 【G-2/太陽光発電所内部・GNスパ男湯個室風呂】 【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:健康、ほっかほか [服装]:全裸 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(確認済)、薔薇の入浴剤@現実 [思考] 基本:人の本質を知りたい。 1:この争いに参加する。 [備考] ※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。 『支給品解説』 【ワルサーP5@機動戦士ガンダム00】 本編にてアレハンドロ・コーナーが使用していた小型自動拳銃。 何かを主張するかのような金メッキ、エングレービング仕様が施されている。 【GN首輪探知機@オリジナル】 超小型化された擬似太陽炉を搭載した首輪探知機。不可視の改良擬似GN粒子を放出することで、 自分の現在地から周囲1km(エリア1マス分)の首輪の位置をかなり詳しい地形マップ付きで表示する。 擬似太陽炉の無理な小型化により、GN粒子を蓄えるペースが遅く、一時間溜めても一分弱しか稼動できない。 また、常時 擬似GN粒子がダダ漏れであり、何らかの細胞障害事故を引き起こす可能性もある欠陥品。 【薔薇の入浴剤@現実】 薔薇の花びらと香りが濃縮された風呂用薬剤。 一人用の浴槽であれば18~19回分の使用に耐える量が、プラスチックの器に入っている。 食べ物ではありません。 時系列順で読む Back 海からの呼び声、強いられた結合 Next 歪曲 投下順で読む Back 海からの呼び声、強いられた結合 Next 歪曲 刹那・F・セイエイ 038;機動戦士ホンダム00~ツインドライヴ~ トレーズ・クシュリナーダ 061 いやあ……兵藤は強敵でしたね